047 : 猫の目16






「リュック、今夜はあの町の宿屋に泊まらないか?」

「そうだな
この前泊まったあの宿屋なら、おやじさんも遅くまで起きてるみたいだったし、きっとまだ大丈夫だろう。」

「そうしてもらえると助かるよ。」



隣町に着いたのはどっぷりと夜の更けた頃だった。







「すまないな、君だけだったらもっと早くに進めるのだろうが……私ももう年だな。」

宿の部屋に入るなり、私達はベッドに疲れた身体を横たえた。



「何言ってるんだ。
このところ、えらく無理してるから疲れるのも当然だ。
俺の方こそすまなかったな、勝手にあんたを巻き込んで……」

「いや、そんなことは良いんだ。
私も君と同じ気持ちだった……」

それは本心でもあり、ちょっと無理をした言葉でもあった。



「あんたならそう言ってくれると思ってたよ。」

リュックのどこかはにかんだような表情に、私もふと心が和む。



「それはそうと、あの二人……このまま和解出来ると思うか?」

「あぁ…大丈夫だと思う。
今回のことでお母さんの想いはリンゼイさんに、そしてリンゼイさんの想いはお母さんへと、しっかりと伝わったと思う。」

「じゃあ…リンゼイさんはおふくろさんとまた暮らすようになると思うか?」

「あぁ…多分そうなるんじゃないかな?」

「そうか……きっと、そうだよな。」

いつものことだが、リュックはどうしてこれほど他人の幸せに嬉しそうな顔をするのだろう。
クロワもそうだが、自分のことよりも他人のことばかりを考えている。



「あと……先生のことなんだが……」

「えっ?先生のこと……?」

考え事の最中に話し掛けられ、私はリュックの言葉を繰り返した。



「先生…蝶番や裏口の鍵、ちゃんと直せるのかなぁ?」

「そのくらいのことなら出来るって言ってたじゃないか。」

「違う。先生は『多分、出来ると思います。』って言ったんだ。
あの先生、大工仕事なんてきっとやったことないと思うぜ。
窓ガラスが入るまで、板でも打ち付けといてくれたら良いんだが……あぁ、畜生、もっとちゃんと言ってくれば良かった。」

リュックはそう言って、悔しそうに舌を打つ。



「そんなことくらい、きっと誰かが気付くさ。
それに、メイドさんもじきに帰って来るってことだったし、そしたら……」

「なぁ、マルタン!
やっぱり、リンゼイさんの用が終わったら、一旦、あそこに戻らないか?」

私達は、リンゼイさんの用が済んだら、あの町でクロワ達を待つということにしていた。
何度も往復するのは確かに堪えるし、後のことは私達がいなくとも解決出来ることだから。
しかし、リュックはあの屋敷のことが気にかかって仕方ないのだろう。
確かに、クロードにまともな大工仕事は出来そうには思えない。




「……あぁ、そうしよう。」




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