047 : 猫の目15
「なにはともあれ、あなたが戻って来てくれて良かった……
それに、私のことをこんなに心配してくれたなんて……」
リンゼイの母親は、ワインでほんのりと赤く染まった顔で独り言のように呟いた。
「わ、私はそれほど心配なんて……」
リンゼイは、そう言って母親から顔を背けた。
「そういえば、リンゼイさん。
どうして裏口のこと、先に言ってくれなかったんだ?
そうすりゃ、窓を割る事なんてなかったのに……」
「それは…そ、その……」
「動転してて忘れてたんですよね?」
薄ら笑いを浮かべるクロードに、リンゼイはちらっと彼を見ただけで、何も答えはしなかった。
「本当にさっきはびっくりしたわよ。
突然、窓から植木鉢が飛びこんで来たんですもの。」
「申し訳ない。
とにかく、なんとかして家の中に入らないといけないって焦ってたんだ。」
「ええ、わかってます。
娘がお騒がせして、こちらこそ本当に申し訳ありませんでした。」
母親の言葉に続いて、リンゼイも小さな声で「ごめんなさい。」と呟いた。
「謝ることなんてないさ。
おふくろさんに何事もなくて良かったな。
それより、窓と裏口を早く直さなきゃならないな。」
「リュック、ドアの方は大丈夫なんだろうな?」
「頑丈な扉だから、あっちは大丈夫だと思うが……」
そう言いながらリュックは席を離れ、しばらくすると彼は苦々しい表情を浮かべて戻った。
「……今、見て来たら、蝶番が片方歪んでやがった。
ちょっと修理しなきゃならないな。
よし、明日早速町に行って…あ、この近くの町にガラス屋はあるか?」
「あいにく、ガラス屋は雪の町か、リンゼイの住んでた町に行かないとないのよ。」
「そうか……それじゃあ……」
「……あ、大変!」
リュックの言葉にかぶさるようにして、リンゼイが大きな声を上げた。
「どうした?
何が大変なんだ?」
「私…週末にはチェスターさんと野菜を持って隣の町に行く事になってて……
何も言わずに飛び出して来たから、きっと心配してらっしゃるわ。
私、すぐに戻らなきゃ…!」
「なに言ってんだ。
おふくろさんはこの通り、動けないんだぜ。
あんたがついててやらなきゃどうすんだ。
……よし!俺とマルタンであんたの代わりに今から行って来る!
今から行けば、間に合うだろう。」
「そんな…今から出たら夜道を歩くことになりますわ。
それでなくとも、お疲れでしょうに……」
「大丈夫だ!俺達は旅慣れてるから、な、マルタン!」
内心ではえらいことになったと思っていたが、皆の手前、それを顔に出すことも出来ず、私は曖昧に微笑んで頷くしかなかった。
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