047 : 猫の目10


「リュック!そんな責めるような言い方は良くないわ!」

「お、俺はなにもそんな……」

クロワの激しい剣幕に、リュックは口篭もりながら目を伏せた。



「リンゼイさん……」

クロワは席を立ち、リンゼイの傍に回り込み白いハンカチをそっと差し出す。



「……あ、ありがとうございます。
それに…この方のおっしゃる通りです。
わ、私が悪いんです。」

「……大丈夫よ。」

優しく背中をさするクロワに、リンゼイも少しずつ落ち付きを取り戻し、しばらくしてようやくリンゼイの涙は止まった。



「取り乱してしまってすみません……
私が……私が悪いんです。
父が死んだのは、私のせい……
私が父に心配をかけたから、それで父は……」

「リンゼイさん、それは……」

話しかけたクロワに、私は首を振ってそれを制した。
リンゼイは、まだなにかを話そうとしていたから……
クロワは私の動作にすぐに気付き、それ以上なにも言わなかった。




「父は、私のことをあんなに愛してくれて、あんなに可愛がってくれたのに、私はそんな父の想いを振りきって家を出ました。
そのことで父の命を縮めてしまったことが申し訳なくて……
私はなんてことをしてしまったんだろうって、後悔に押し潰されそうになりました。
私が父の言う通りにしていたら、きっと今でも父は元気だったはず。
だから……帰れなかったんです。
父に合わせる顔がなかった……
母になんといって詫びたら良いのかもわからなかった……
だから、私は……どうしても……」

リンゼイの唇がわななき、彼女の華奢な肩が震え、それをクロワがそっと抱き締めた。



「リンゼイさん…
人の寿命は、残念ながら人間ごときにどうこう出来るもんじゃない。
あんたのおやじさんは、あんたのせいで死んだんじゃない。
それは、神様がお決めになったことなんだ。
そりゃあ、おやじさんがあんたのことを心配してたのは間違いないだろう。
だけどな…考えてみろよ。
親に心配をかけたり、言うことをきかない子供なんて、世の中には山ほどいる。
だけど、その親がみんな死んじまうわけじゃないんだぜ?
あんたが、自分を責めるのは筋違いなことだし、そんなことをしてもあんたのおやじさんは少しも喜ばない。
……喜ばないどころか、却って悲しむだろうな。」

今度はクロワもリュックの言葉を咎めることはなかった。


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