047 : 猫の目9


「あんたの気持ちはわかる。だけど……」

「リュック……もう少しリンゼイさんの話を聞こう。」

リュックが言おうとしたことには見当が付いたが、リンゼイの話はまだ終わった様子はない。
私は、彼女に話を続けさせた。



「飛び出たのは良いですが、やはり私も心細かった……
両親に逆らって出て行くのだからと思い、私…たいしたものは何も持たずに出てしまったんです。
だから、それほど遠くに行こうにも旅費がなくて行けず……我ながら、なんて無謀なことをしたんだろうと後悔しました。
宿に泊まるお金もなく、困り果てていた時に、たまたまこの家の持ち主の方と出会い、裏の畑仕事を手伝う代わりにここを貸していただくことになったんです。
……私、家を出たらすぐに住みこみの仕事をみつけようと簡単に考えてたんです。
だけど、私は働いたこともですが、知らない人と話したことさえほとんどなくて……人の目が気になり、声をかけることすら出来なかったんです。
ですから、あの時、チェスターさんが声をかけて下さらなかったら私は今頃どうなっていたことか……」

「良かったわ…良い方にめぐりあえて……」

クロワはそう言いながら、リンゼイの手を優しく握る。
リンゼイはその行為に一瞬驚いたような顔を見せたが、やがてその顔ははにかんだような表情に変わった。



「ええ…本当に……」

「それで、ここの場所のことは家に連絡したのか?」

「いいえ、でも、すぐにみつかって……
何度も両親がここに来ました。
だけど……私は一度も会いませんでした。
何度来ても一度も……」

リンゼイもそのことを後悔しているのか、そう言うとそっと顔を伏せた。



「リンゼイさん…あんたの気持ちはわかるよ。
全くあんたの言う通りだ。
あんたの痣はあんたのせいじゃないし、勇気を出して世間に飛び出したのはすごいことだと思うぜ。
ただ……ご両親にしたことは間違ってる。
特に、おやじさんが亡くなった時にも帰らなかったっていうのは、絶対に間違ってると思うぜ……」

「それは……」



リンゼイは急に言葉を詰まらせ、みるみるうちに大きな瞳に涙が溢れ出し、ついには声を上げて号泣し始めた。


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