047 : 猫の目8


「……大丈夫ですか?」

「ええ…大丈夫です。」

私の問いかけに、彼女は気丈に顔を上げ、そう答えた。



「当時は私も多感な年頃でしたから、とにかく大きなショックを受けてしまって……
悲しさや悔しさをぶつけるように両親を責め続け、それに対して両親はただ謝るばかりで、私にはそれがまた腹立たしくて……
そんなわけですから、私と両親の間には大きな亀裂が入って…いえ、私がかんしゃくを起こしていただけなんですが、とにかく家の雰囲気も最悪になり、毎日泣いたりわめいたりしながら何年も過ごしました。
……死んでしまおうと思ったことさえ、何度かありました。
でも……そのうちに、気持ちが変わったんです。
だって、私のこの痣は、私のせいではありません。
そりゃあ、両親には酷い事をしてしまいましたが、それ以外では、私は今まで誰かに後ろ指をさされるようなことをして生きて来たわけでもありません。
なのに、どうしてこんな風にこそこそ隠れるようにして生きていかなきゃならないのかって……
そのことがとても悔しく感じられたんです。
ですから、私は家を出て一人で暮らしたいと両親に話しました。
もちろん、両親は大反対です。
ここがいやなら、もっと違う場所に三人で移ろうと言ってくれましたが、そういうことではなく、私は人目を避けて生きていくのがいやだったんです。
ですが、その想いをわかってはもらえず、両親は反対するばかりでした。
……いえ、本当はわかってるんです。
両親が私のことを思って、反対したことは……
でも、私はやっぱりいやだった……世間に負けたままでいるのがいやだった……
だから、私はある晩、思い切って家を飛び出したのです。」


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