047 : 猫の目7






「こんにちは。
ここにリンゼイさんって人はいるかい?」

リュックはそう声をかけながら扉を叩いた。



「は〜い、どなた?」

家の中から若い女の声が戻り、そして、扉が開かれた。



「あ…えっと……
あんた、山の上にジョナサンさん家の娘さんの……」

リュックはほんの一瞬、言葉を詰まらせかけたがすぐに平静を取り戻した。



「……ええ、リンゼイです。」

娘は俯き加減に小さな声で呟く。



私はその時に、リンゼイの母親がはっきりとは言わなかった彼女の事情を知った。
彼女の顔には、額から片方の目のあたりにかけて黒い痣があったのだ。
色が白いだけに、その痣はけっこう目立つ。



「実は、あんたのおふくろさんからあるものを託って来たんだ。」

「母から…ですか?」

リンゼイは用心しているようだったが、クロワの姿を見て少し安心したのか、私達を家の中に通してくれた。
部屋の中には必要最低限の家具しかなく、とても若い女性が暮らしてるとは思えない、地味で質素な薄暗い部屋だった。







「これを母が……!」

指輪を手渡すと、リンゼイは意外な程に驚いた。



「あぁ、あんたが隣の大陸に移ると聞いて、そのお守りみたいなつもりであんた用に台座を変えたようだぜ。」

「私が隣の大陸に……?
……あ……」

「どうしたんだ?
違うのか?」

リンゼイは、俯いたまま小さく首を振る。



「私が家を出たいきさつについては…母から聞かれてますか?」

「いや…詳しいことは特に聞いてないが……」

「……そうですか。
私の顔には見ての通り、痣があります。
両親は、そのことを気にして私が生まれるとすぐに町を離れ、あんな山の上に家を建てました。
……私は子供の頃から友達と遊んだことはありません。
両親とメイドさんとしか会ったことがありませんでした。
子供の頃はそれでもまだ良かった……ですが、大人になって来るに連れ、それがおかしいことだと思えて来たのです。
ある時……確か、十二か十三歳頃に私は家を抜け出し、近くの町に出掛けました。
そこで、私は……初めて現実に対面したんです。
もちろん、私の顔に痣があることは知ってましたが、そのことについて誰も悪くは言わなかった。
だから、私も少しも気にしていなかったんです。
町で、人々が私を見てなにかおかしな顔をするのには気付きましたが、それでも私はそれがこの痣のせいだとは思わなかった。
だけど……同じ年頃の少女達を見かけ、私がつい嬉しくなって話しかけた時……
彼女達は私から退いたんです。
そして、顔の痣のことを気持ち悪いって、はやされて……」

遠い過去の話に、彼女は瞳を潤ませた。


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