047 : 猫の目3
*
「そいつは良いや!」
「だろ?あんな面白いものは滅多にないぜ。」
食事を済ませた後は酒盛りとなり、リュックの大袈裟な話にアンディは腹を抱えて笑い続けた。
「こんな楽しい酒を飲んだのは久し振りだ。
この町は見ての通り、寂れてて酒場の一軒もない。
かといって、雪の街までわざわざ行くっていうのもなんだしな…
だから、親方が死んでからは一人で気晴らしにほんの少し飲むだけでな。
とはいえ、一人で飲む酒っていうのはどうにも味気ないもんなんだ……」
「……わかるよ。
俺も長年そういう暮らしをしてたから……」
リュックの言葉に、アンディはくすくすと笑う。
「長年って……あんた、俺よりずっと若いだろ?
あ〜あ、それにしても若いって良いな。
俺はもう今年で三十だ……」
度々こういう状況に遭遇して来たリュックは、何も言い返すことはなく、ただ苦笑するだけだった。
若く見えることには誰しも憧れるものだが、リュックの場合はそうとも言えない。
「そんなことより、アンディ…あんた、職人なのか?」
「あぁ、そうだ。
急ぎの仕事があって、最近は根詰めて頑張ってたんだが、それが今日やっと完成したんだ。
それで、夜にちびちびやろうと思って、そのあてに山菜を採りに行ったんだ。
今日、サムの店が休みじゃなかったらそんなこともしなかっただろうし……
そしたら、こんな怪我しなくて済んだのにな。」
「……でも、そしたらこんな風に楽しい酒を飲めることはなかったんだぜ。」
「あ……」
絶妙のタイミングで返されたリュックの言葉に、アンディは片手で頭を押さえて苦笑した。
*
「あ、おはよう!昨夜はゆっくり眠れたかい?」
「おはよう!あぁ、ぐっすり眠らせてもらったよ。
それより、動いて大丈夫なのか?」
「このくらいなんともない。
クロワさんにも手伝ってもらったしな。
もう朝食の用意が出来るから、先生も起こしてこいよ。」
「あぁ、わかった。」
次の朝、私達はまるでアンディの家族のように寛いだ雰囲気で、朝食の席に着いた。
アンディとは昨日知り合ったばかりだというのに、この家の雰囲気なのか、それとも彼の人柄なのか、他人の家だというのにやけに落ち着きを感じてしまう。
「ところで、あんた達はここを街道沿いに進むって行ってたよな?」
「あぁ、そうだが……」
「ちょっと、あんたらに頼みたい事があるんだ…」
「頼み?あらたまって、一体何なんだ?」
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