047 : 猫の目3






「そいつは良いや!」

「だろ?あんな面白いものは滅多にないぜ。」

食事を済ませた後は酒盛りとなり、リュックの大袈裟な話にアンディは腹を抱えて笑い続けた。



「こんな楽しい酒を飲んだのは久し振りだ。
この町は見ての通り、寂れてて酒場の一軒もない。
かといって、雪の街までわざわざ行くっていうのもなんだしな…
だから、親方が死んでからは一人で気晴らしにほんの少し飲むだけでな。
とはいえ、一人で飲む酒っていうのはどうにも味気ないもんなんだ……」

「……わかるよ。
俺も長年そういう暮らしをしてたから……」

リュックの言葉に、アンディはくすくすと笑う。



「長年って……あんた、俺よりずっと若いだろ?
あ〜あ、それにしても若いって良いな。
俺はもう今年で三十だ……」

度々こういう状況に遭遇して来たリュックは、何も言い返すことはなく、ただ苦笑するだけだった。
若く見えることには誰しも憧れるものだが、リュックの場合はそうとも言えない。



「そんなことより、アンディ…あんた、職人なのか?」

「あぁ、そうだ。
急ぎの仕事があって、最近は根詰めて頑張ってたんだが、それが今日やっと完成したんだ。
それで、夜にちびちびやろうと思って、そのあてに山菜を採りに行ったんだ。
今日、サムの店が休みじゃなかったらそんなこともしなかっただろうし……
そしたら、こんな怪我しなくて済んだのにな。」

「……でも、そしたらこんな風に楽しい酒を飲めることはなかったんだぜ。」

「あ……」

絶妙のタイミングで返されたリュックの言葉に、アンディは片手で頭を押さえて苦笑した。







「あ、おはよう!昨夜はゆっくり眠れたかい?」

「おはよう!あぁ、ぐっすり眠らせてもらったよ。
それより、動いて大丈夫なのか?」

「このくらいなんともない。
クロワさんにも手伝ってもらったしな。
もう朝食の用意が出来るから、先生も起こしてこいよ。」

「あぁ、わかった。」



次の朝、私達はまるでアンディの家族のように寛いだ雰囲気で、朝食の席に着いた。
アンディとは昨日知り合ったばかりだというのに、この家の雰囲気なのか、それとも彼の人柄なのか、他人の家だというのにやけに落ち着きを感じてしまう。



「ところで、あんた達はここを街道沿いに進むって行ってたよな?」

「あぁ、そうだが……」

「ちょっと、あんたらに頼みたい事があるんだ…」

「頼み?あらたまって、一体何なんだ?」





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