047 : 猫の目1
*
「ここしばらく面白いものは無さそうだな。」
「良いじゃないか。
何事もないのが一番落ち着くよ。」
「……それもそうだな。」
私達は、次の日の早朝、思いがけず長居をしてしまった雪の街を後にした。
宿の前でいつまでも手を振る老人の姿には、私も胸が熱くなる想いだった。
これから先は、特にこれといって特徴のない小さな町がいくつか続くということで、その先に、将来、カールが行くことになるであろう学校のある大きな町に着くのだという。
「それはそうと、マルタン……
あの二人、今日はやけに仲良さそうじゃないか?」
リュックがほんの少し顔を後ろに向けながら、私達の少し後から歩いて来るクロワとクロードのことを噂した。
「先生がカールのためにしたことを、クロワさんはとても喜んでたからな。」
「それはわかってるけど……
マルタン…あんた、本当にクロワさんのこと、なんとも思ってないのか?
あのまま、クロワさんが先生と仲良くなっても良いのか?」
「またそれか……
私はクロワさんのことを意識したことはないよ。
女性ではなく、人としての彼女は好きだが、それは恋愛感情とは違うものだ。
だから、むしろ、そうなってほしいと思ってるくらいだ。」
「そうなのか……」
リュックは、残念そうな顔で小さく首を振る。
(もう誰も不幸にはしたくないから……)
私が愛した女……そして、私を愛してくれた女は必ず不幸な死に方をしてしまう。
(だから、私はこの先、誰のことも好きにはならない。
そして、誰にも愛されないでいたい……)
「マルタン…あんた、もしかして……」
「リュック!町だ。
……思ったよりも近かったな。」
「え…?あ、あぁ、そうだな。」
リュックがなにを言いたかったのか、見当は着いた。
だから、そんな時、ちょうど町が見えてきたことは、私にとっては都合の良いことだった。
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