046 : 昼下がり1
*
「先生はまだ戻らないのか?」
「珍しいな。
彼が一人で外出するなんて。」
テリー達のこともようやく落ち着き、そろそろ長居したこの町を離れようと思った矢先、クロードが珍しくあと一日だけ留まりたいと言い出した。
そして、朝食を採るとどこかにでかけ、昼食の時間になっても彼は戻って来なかった。
「しかし、寂しいのう…
明日には旅立ってしまうなんて……」
「爺さんにはずいぶんと世話になったな。
また、遊びに来るよ。
あ、カール達が困ってるようだったら……」
「あぁ、わかっとる。
時間のある時には、あの子達の所を訪ねてみるよ。」
「頼んだぜ、じいさん!」
考えてみれば、この老人とはずいぶんと同じ時を過ごした。
何泊かするだけのつもりが、またここでも様々な出来事に遭遇し、いつしかこの町も思い出深い場所となっていた。
旅を続けるうちにそういう場所が少しずつ増えて行く。
「マルタン、これから買い物にでも行くか?」
「……そうだな。」
朝食後、私はリュックと町へ向かった。
どこにどんな店があるのかも、もう自然と覚えている。
特に買うものもないので、ただひやかしながらぶらつくだけだ。
「あ、先生だ!」
診療所の近くで、私達はクロードがちょうどそこから出て来るのをみかけた。
診療所の院長と、カールがそれを見送っている。
「おーい、先生!」
「リュックさん!」
私達は、クロードに…そしてその向こう側にいる院長やカールに手を振った。
「なんだ、先生…カールに会いに行ってたのか。」
「そういうわけではないのですが……
あ、そこでお茶でも飲んで行きませんか?」
クロードはそう言って、小さなカフェを指差した。
*
「なんだか、クロワさんがいないとおかしな感じがするな。」
「そういえば…こんな風に三人でお茶を飲むことなんて、今までなかったかもしれませんね。」
クロードは微笑み、手に持った紅茶をゆっくりとすする。
「こんな昼間に、俺達みたいな男達がのんびり茶を飲んでるっていうのもおかしいんだよな。」
「おっしゃる通りです。
私もこうして旅に出る前は、こんなのんびりした時間を過ごしたことはありませんでしたよ。」
「ところで、先生…
診療所にはなにか用事でもあったんですか?」
「……あぁ、それなんですが……」
クロードはどこかはにかんだ様子で、話し始めた。
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