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「カール…騙されないようにすることはもちろん大切なことだけどな、だからといってなんでもかんでも疑うのは間違いだ。
誰でも彼でも疑うのは、おまえに人を判断出来る目がないからだ。
大切なのは疑うことじゃない。
誰が本当のことを言ってて、誰が騙そうとしてるのかを見極める事だ。
……世の中ってのはな、悪い奴や冷たい奴ばかりじゃないんだ。
そうじゃない奴だって悪い奴と同じくらいたくさんいるんだぜ。
おまえ、あのクロワさんがおまえ達を騙そうとしてるって思うのか?
第一、騙して一体どんな得があるってんだ?
クロワさんはな、今までだってたくさん困ってる人を助けて来た。
この俺だって、クロワさんやマルタンに救われたんだぞ。
おまえが今回の治療費をどうしても返したいと思うのなら、おまえが大きくなって、誰かを助けられるようになってから返せば良い。
……ただし、返す相手は俺達じゃないぞ。
今のおまえみたいに困ってる人にだ。
その頃にはきっと俺の話の意味がわかる筈だ。
世の中には損得関係なしに困ってる人を放っておけない者がいることも、どいつが悪い奴でどいつがそうじゃないかってこともな。」

リュックはいつもより低い声で話していたが、その声には熱がこもっていた。
彼なりの飾らない言葉で、カールにわかりやすいようにゆっくりと話されたその内容に偽りがないことは明らかだった。



「リュックさん…本当にありがとう。
俺…本当に感謝してる…」

目を潤ませたテリーの隣で、カールは何も言わず俯いたままだった。
幼い彼にリュックの話がうまく伝わったかどうかはわからない。
だが、利発な彼のことだ。
きっと、今夜のことを忘れはしないだろう。




「カール、おまえはクロワさんとここに泊まりこみだ。
テリーは明日も仕事があるんだろ?
俺とマルタンがおまえの家に泊まらせてもらうよ。」

「リュックさん、俺、一人だって大丈夫だ。」

「ま、そう言うな。
おまえだって、まだ大人じゃないんだから。
……じゃ、クロワさん、後のことは頼んだ。」

「ええ。」



私達は、テリーと連れ立って診療所を後にした。
クロワと並んで手を振るカールの青い瞳は、ずっとリュックをみつめていた。


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