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「せ…先生って…?」
慌しく部屋を飛び出したクロワに驚いたような様子のカールが、か細い声でリュックに訊ねた。
「おまえ、運が良いな。
今話してたクロワさんは薬師だ。
それと、先生っていうのは俺達と一緒に旅をしているクロードっていう医者だ。
すぐに二人がおまえの母さんを診てくれるから安心しろ!」
「ほ、本当に!?
……で…でも…僕にはお金が…」
カールの輝いた顔は、またすぐに暗く曇った。
「そんなこと、子供が気にすることはないんだ。
俺達に…」
「だ、だめです!」
カールは感情的にそう叫び、大きく首を降る。
「……だめって…何がだめなんだ?」
「……母さんはよく言ってました。
うまい話には必ず裏があるって…
だから……だから、診察代は…僕に貸して下さい。
今すぐには払えないけど……でも、僕、必ず、働いて返しますから…だから…どうかお願いします。」
泣き出しそうな顔で、それでも懸命に涙を堪えながらカールはそう訴えた。
「……そうか、わかった。
それなら、おまえの言う通りにしよう。
だけど、おまえが働いて金を稼げるようになるにはまだずいぶんと時間がかかりそうだ。
俺達もそんなに暇じゃないから、それを待ってるわけにはいかない。
だから……おまえには明日から早速俺の仕事をしてもらう。
……それで良いな?」
「で、でも…僕は…」
「カール!早く、私達をあなたの家に案内してちょうだい!」
リュックがカールに何をさせようとしているのか、私にはわからなかった。
そもそも、人の良いリュックがこういう時に、こんな子供から代償を得ようとすることはおかしなことだ。
だが、リュックにその真意を訊ねる暇もなく、私達はすぐさまカールの家に向かった。
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