「……思った通りだ。
あいつはやっぱり、真っ直ぐにあの薬草の所に向かってる。」

「……と、いうことは、あの子はあの薬草がどういうものか知ってるってことか?」

「おそらくそうだろうな。
何に使うつもりかはわからないが、とにかくこのまま見過ごすわけにはいかない。
マルタン、このまま気付かれないようにあいつをつけるぞ。
それで、薬草を摘み始めたらとっ捕まえる…良いな?」

「わかった。」


私達は息を潜め、少年の後をそっと尾行た。
少年は、やはりあの危険な薬草の所へ行き、あたりの様子を確かめるとがむしゃらに摘み始めた。



(マルタン、行くぞ!)



リュックは私の耳元でそう囁くと、少年の背後に身を躍らせた。




「こら、ぼうず!そこで何をしてるんだ!」

「わっ!」

少年は、リュックの声に背中をびくんと波打たせ、短い叫び声を上げて振り向いた。
そして、逃げ出そうとする所をリュックの腕の中に捕まり、私も少年の片方の腕をがっしりと掴んだ。



「み、見逃して下さい!
ぼ、僕には、どうしてもこれが……」

少年は唇を震わせながら、私達を見上げた。
その瞳にはうっすらと涙が浮かび、暴れることも反抗的な態度を示す事も少しもなかった。
少年はゆったりとした服を身に着けていたが、掴んだ腕はとてもか細いもので、どう考えてもたいした力があるとは思えない。
私達に抵抗しても無駄だということを本人もわかっていたのかもしれない。



「……とにかく、ここじゃ、なんだ。
ゆっくりと話を聞かせてもらおう。」

「お願いです。
どうか…どうか…」

「だめだ。
話も聞かずに許すことは出来ない。
さ、行くぞ。」

リュックは、きっぱりとした声でそう言うと、少年の手首を掴んで歩き始めた。
少年は、憔悴しきった顔つきで、黙ってリュックに手を引かれて行った。
その小さな後姿を見ていると、なんだかとても気の毒で、つい許してやりたい気にもなったが、あれを悪用されると大変なことにもなりかねない。
やはり、少年には話を訊く必要がある。


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