「兄さん、正気なの!?
本気でそんなことを…!」

「あぁ、本気だとも!
おまえも聞いただろう?
あれは、麻薬になるとても珍しい薬草だって言ってたぞ。
だったら、ジャクソンに持って行けばそれなりの値段で買い取ってくれるはずだ。
良いか…ジャクソンにはあの場所のことは絶対に言うんじゃないぞ!
これから先もあれを売って金にするんだ。」

「兄さん…どうか落ち着いて…
あれは、麻薬なんだよ?
そんなものをジャクソンに渡したら、どうなると思うの?
麻薬から離れられなくなって人生を踏み外したり…もしかしたら死んでしまう人だっているかもしれないんだよ!」

少年は両腕をしっかりと掴み、兄の顔をじっと見上げた。
兄は、そんな弟の視線に気付きながらも、あえてそれを逸らして横を向いた。



「そんなこと…知ったことか!
カール…おまえ、わかってるのか!??
母さんが今どういう状態なのか…
昨日だって、あんな酷い発作を起こしたんだ。
なのに…金がないからって医者も診てくれなかった。
このままじゃ、母さんは死んでしまう!
なんとかしなきゃいけない…大きな町の医者に診てもらわなきゃならない…それも緊急にだ!
残念ながら俺だけの稼ぎじゃ朝から晩まで働いたって食べていくのがやっとだ。
薬だって十分には買ってやれない…
もう俺達には考えてる余裕はないんだ!
良い事か悪い事かなんてそんなことどうだって良い!
俺は…俺は母さんを救えるのなら、悪い事だってなんだってするさ!
他人がどうなろうと知ったこっちゃない!」

「駄目だよ、兄さん!
そんなこと絶対に駄目だよ!
……よく考えてみてよ。
ジャクソンは、きっとあの薬草の場所を知りたがる筈だよ。
僕達から買うよりも自分で採りに行く方が手っ取り早いし、場所さえわかれば僕達に金を払う必要がないんだから。
そしたら、僕達だってどんな酷い目に会わされるかもしれないよ…
そうなったら、どうするの?
兄さんは働けなくなって、僕は母さんの世話が出来なくなって…
そんなことになったら、それこそ母さんは死んじゃうよ!
……それでも良いの?兄さん!」

いつもは穏やかな弟の高ぶった叫び声に兄は何も言い返すことが出来ず、ただ唇を噛み締めて身を震わせるだけだった。


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