「クロワさん…つまり、あの薬草は麻薬のようなものだということですか?」

クロワは、ソレイユの名を出したことで気まずい想いを感じたのか、私とは目をあわさないまま頷いた。



「これは使いようによってはとても危険なものになりますが、普通の薬ではなかなか抑えられないような激しい痛みを和らげることも出来ます。」

「お気の毒なことですが、今の医学では治せない病もたくさんあります。
そしてその中には、とても酷い痛みを伴なわれる方も…」

クロワの返答に添えられたクロードの言葉には重みがあった。
彼は医者だ。
今までに、数多くの患者と接して来ている。
患者がどの程度の痛みや苦しみを感じているかもわかるからこそ、医者という職業を越えて同情したケースもあったかもしれない。
常に冷静で科学的なことしか信じない彼も、血の通った人間だ。
悶え苦しむ患者を前にして、なにも感じないわけではないのだ。



「旅をしていたら、そういう重い病状の患者さんに出会うことはめったにありませんが、なかなか手に入らない薬草ですから、少しだけ採っていきましょう。」

「でも、クロワさん…麻薬にもなるような危険な薬草なら、根こそぎ引っこ抜いておいた方が良いんじゃないのか?
いつも採りに来てる薬師っていうのも、どういうことに使ってるのかわからないぜ。」

「リュック、さっきも言った通り、その薬草には良い効果もあるのよ。
……私は、その薬師さんが悪い事に使ってるとは思えない。
だって、そんなことを考える人なら、それこそ根こそぎ持っていくんじゃないかしら?
麻薬にして売れば、大金が儲かるんですもの。」

「それはそうだが…」

二人のちょっとした言い争いが不意に途切れ、短い沈黙に包まれた時、私達は小さな物音を聞いた。



「誰かいるのか!?」

反射的にリュックが振り向き、声をかけたが、何の反応もなかった。



「私達がつまらない言い争いをしてるから、ソフィーさんが心配して見に来たのかもしれないわね。」

クロワの冗談に、リュックは思わず微笑む。



「……すまなかったな。
薬草のことはクロワさんに任せるよ。」

「私こそ…
……じゃ、この袋に入るだけ採りましょう。」

クロワは頷き、小さ目の麻の袋を差し出した。


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