「ここは……」

リュックが先頭に立って誘導した場所は、思った通り、ソフィーの亡骸のみつかったあの場所だった。
あの時とは違い、盛りあがった土の固まりはもうそこにはない。
一部だけ違う色をした地面が、その痕跡を伝えているだけだ。



「ここにはもうソフィーさんはいないけど、長い間一人でいて寂しかっただろうからな。
ソフィーさん、もうここのことなんて思い出すなよ!」

リュックはその場に腰をかがめ、地面に向かってそう話しかけた。



「大丈夫だ。
彼女はもうここのことなんて忘れて、エリックさんと仲良くやってるさ。」

「そうね、私もそう思うわ。
でも…ソフィーさんは粉雪の木が好きだったみたいだから、たまには見に来られるかもしれないわね。
ここのは一番見事だもの…」

クロワはすぐ脇の粉雪の木の群生を、優しい眼差しでみつめた。



「そうかもしれないな。
エリックさんと二人で見に来るかもしれないよな。
……それにしても、ここの香りはすごいな。
この前来た時よりずっと強くなってるような気がする。」

それは私も感じていたことだった。
考えてみれば、まず、昨日、川沿いにこの町に戻った時にそれを感じていた。
特に、意識はしていなかったが、リュックの話を聞いた途端にそのことを思い出した。



「……なんだかおかしいわ…
……まさか……!」

そう言ったっきり、声をかける間もなくクロワが立ち上がり、粉雪の木の方へ向かって歩き出した。
あたりをきょろきょろと注意深く見回しながら進むクロワの後を、私達はわけもわからず着いて行った。
その間にも不思議と香りは強くなっていく。



「あった!あったわ!」

クロワが声を上げ、喜びに満ちた表情で振り向いた。



「あったって…薬草があったのか?」

「ええ、そうよ。
ほら、あそこ…」

クロワが指差した山の斜面には、薄紅色の小さな花を付けた雑草のようなものが広がっていた。



「あれがクロワさんの探してた雑草なのか?」

「そうよ!
さっき、あなたが言ったでしょう?
いつもより香りが強くなってるって…リュック…これは粉雪の木の香りじゃない。
あの薬草の香りよ!
粉雪の木の香りより、ずっと甘いのに気付かない?」

私は思わず頷いていた。
その通りだ。
この香りは粉雪の木のものとは微妙に違う…
もっと甘く…それに、何と言えば良いのかわからないが、なぜか気分が高揚するような印象を受けた。


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