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「え?そうなのか?」
「ええ、昨夜、タバサさんと遅くまでいろいろな話をしていたの。
ソフィーさんはあの粉雪の木が好きで、あの木を宿屋の庭に植えようと考えてたみたいよ。
二人は結婚したらしばらくはよその町で暮らして、ご両親がご高齢になったら宿屋を継ごうと考えてたんですって。
ソフィーさんは学校の先生になることが決まってたらしいの。」
「そうだったのか…そういえば、遠い町の学校に行ってたって言ってたな。
ソフィーさんは学校の先生になるための勉強をしてたんだな。」
「でも、あんなことになってしまって…
ご両親はたいそうお嘆きになって、それで宿屋を売って一家は親戚のいる遠い町へ引っ越したそうよ。」
「そうか、それで宿屋の主人は知らなかったのか…」
「……どういうこと?」
「またそのうち時間のある時に話すよ。
……先生のいない時にな。」
不思議そうな顔をして小首を傾げるクロワに、私達は顔を見合せて微笑んだ。
*
「本当にお世話になりました。」
「タバサさんもお寂しいでしょうがどうぞお元気で…」
それから二日後、私達は出来る限りの雑用を済ませると、町を離れた。
川沿いに行くと、雪の街までは本当にずいぶん近いということをリュックに聞き、私達は今度はそのルートで雪の街を目指すことにした。
「クロワさん、まだ探す気なのか!?」
「当たり前じゃない。
まだみつかってないんですもの。」
リュックはあれからぴたりとソフィーの夢を見なくなった。
エリックの葬儀も済み、そのことでリュックも私ももうこのあたりに留まることは考えていなかったのだが、クロワは違った。
例の薬草がまだみつかっていないので、また探したいと言い出したのだ。
ソフィーの身元がこれほど早くにみつかるとは考えていなかったので、このあたりに留まる事は別に構わないのだが、クロワの薬草への執念というのか愛情というのか、そういうものに私達はただ少し呆れただけなのだ。
「とりあえず、今日はもうゆっくりさせてくれよ。
このところ、ずいぶんと忙しかったからな。」
「もちろんよ。
今日はゆっくりしましょう。
あら……このあたりからもう良い香りがしてきてるわ。」
「そりゃそうだ。
あそこが、ほら、ソフィーさんのいた場所だからな。」
「こんなに近いのか。」
リュックの言った通り、街道を行くのとは比べ物にならない程、その道程はずっと近いものだった。
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