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それから、慌しく時が流れた。
町の人達もあれこれと手助けをしてくれたが、それでも休む暇がない程の忙しさだった。
一段落着いたのは夜になってからで、クロワはタバサを心配して彼女の家に残り、私達は宿屋へ泊まることにした。



「しかし、今日は慌しい一日でしたね。
お疲れになったでしょう。」

私とクロード、そしてリュックの三人は宿で遅い夕食を採っていた。



「先生も大変だったな。
クロワさんとの薬草採りの後だから疲れただろ?」

リュックの言葉に、クロードは苦笑いを浮かべた。



「それにしても、町は大騒ぎですね。
あの柩はここの墓地から亡くなった柩だったそうじゃないですか。
しかも、あの老人は柩のご遺体の婚約者だったとか…
柩と対面した次の日に老人が亡くなったのですから、また様々な妄想が広がっているのでしょうね…」

「……妄想か…
ま、先生にはそうとしか思えないだろうな。」

今度はリュックが苦笑いを浮かべた。
それ以上、リュックが何か余計なことを言わないだろうかと心配したが、その心配は杞憂に終わった。
しかし、その場での会話も弾まず、ただ皆が黙々と料理を口に運ぶだけの夕食はいつもより早く終わり、私達はあっさりと部屋に戻った。
今日はエリックの亡くなった日でもあるし、はしゃぐ方がおかしいのだが、それでもどこか後味は悪かった。



「リュック、さっきは心配したぞ。
でも、よく我慢したな。」

「……あぁ、妄想の話か?
仕方ないさ。
先生はそういうことは信じない人間なんだ。」

「そういえば、リュック。
今朝、クロワさんが来た時……」

「……俺、今朝、夢を見たんだ…」

やはり私の思っていた通りだった。
リュックは、今朝、またエリックとソフィーの夢を見たのだそうだ。
二人はまたあの粉雪の木の下で手を繋ぎ、とても幸せそうに微笑み、そして、だんだんとその姿が消えていったのだという。



「姿が消えて……」

「そうなんだ…最初はごく当たり前に見えていた二人の姿が少しずつ薄くなって…最後には消えちまったんだ。
そしたら、ちょうどクロワさんが来たから……爺さんに何かあったってピンと来たんだ。」

「そうだったのか…
そういえば、エリックさんも言ってたな。
前日、ソフィーさんが夢に出て来たって…」

「あぁ…やっぱり爺さんの言う通り、ソフィーさんが迎えに来てたのかもしれないな。
タバサさんは気の毒だが…爺さんはとても幸せな最期を向かえたのかもしれないな…」

リュックの言う通りだ。
長い天寿をまっとうし、最後まで純愛を貫いた相手に迎えられる死程、幸せなものはないのではないだろうか。
私は心の中でエリックの冥福を祈りながら、黙ったままで頷いた。


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