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「……どうかしたのか?」

「こっちへ来てちょうだい。」

私達の見守る中、タバサは不意に立ちあがり、私達を奥の部屋に案内した。
この家の中で一番日当たりの良いと思われるその部屋では、ベッドに横になった老人が一人で窓の外をぼんやりとみつめていた。



「お、おじ様、お客様が…」

「お客…?
……誰だったかな?」

老人は目を細めて私達の方を見ると、サイドテーブルの上の眼鏡を手に取り、それをかけて私達の顔を再び順番にみつめた。



「爺さん、俺はリュックって言うんだ。
こっちはマルタン。
今日は、ちょっとあんたに聞きたいことがあってな。」

そう話すリュックの後ろで、タバサが急に嗚咽を始め、部屋の外へ飛び出した。



「タバサ…どうした…?
……あんたら、タバサに何か言ったのか?」

老人の驚きは当然のことだ。
私達も一体どうなったのか事情が飲みこめないでいた。



「え…?俺達は泣かすようなことは何も言ってない筈だが…なぁ、マルタン?」

「……ちょっと、見てきます。」

私がタバサの様子を見に部屋を出ようとした時、老人の声が響いた。



「待ちなさい。
まずは、あんたらの話を聞こう。」

私とリュックは顔を見合わせ、ベッドの傍らの椅子にそれぞれ腰をかけ、雪の街での出来事を話始めた。
話を聞き進めるうちに、老人の表情が険しいものに変わっていく…



「……それでな、事情を知ってる人がいないか探してて、商店街で話を聞いて、ここに来れば……」

「……リュック、どうした?」

話の途中で、急にリュックが押し黙ったことを不審に感じ、その顔をのぞきこむとリュックは俯いて涙を流していた。
そう、まるで柩がみつかったあの場所に行った時のように…



「……あ、あなたがエリックさん…!」

リュックの涙を見た途端、私は突然そんなことを口走っていた。
根拠があったわけではない。
考えたわけでもなんでもない。
なのに、私は自分でも気付かないうちにそう言っていたのだ。
老人は私の質問にゆっくりと頷き、潤んだ瞳を皺だらけの指で拭う。



「そうか……やっと…やっとソフィーがみつかった…
今朝の夢は、そのことだったのか…」

そう言うと老人の涙はさらに勢いを増し、止まらない程の流れになった。


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