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私の前を駆け抜けるリュックの姿はみるみるうちに小さくなり、やがてすぐに見えなくなった。
彼の身体はまだ若い。
悔しいが私にはとても彼と同じようには走れない。
私は少しでも早くリュックに追いつこうと、しばらく走っては足を緩め、時には休みながら隣町へ走った。
さほど遠くはない距離だが、急いだ事で着いた時には息は切れ汗びっしょりになっていた。
町に入り、きょろきょろとリュックの姿を探しながら私はあたりを見渡した。
リュックの姿は見当たらない。
彼なら、どこへ行くだろう?
やはり、人の集まる場所…商店街ではないかと考え、私は大通りに面した商店街に急いだ。
「あぁ、その男ならついさっき来たよ。」
やはり私の読みは正しかった。
リュックはこのあたりの商店で、手当たり次第に台風で流された柩のことを聞きこんでいたようだった。
「その人なら、さっき、タバサさんの所に行ったぜ。
この先の角を曲がった青い屋根の家だ。」
「ありがとう。」
酒屋の若い男の言葉によって、ようやくリュックの行方を知った私は、男に教えてもらったタバサという人物の家を訪ねた。
中から出て来たのはふくよかな中年の女性で、玄関口で事情を話そうとしている時、女性の肩越しに聞きなれた声が耳に届いた。
「マルタン!よくここがわかったな。
俺もつい今しがたここに着いたばかりなんだ。」
「そうだったのか…」
「あなたのお友達なの?」
女性は振り向いてリュックに尋ねる。
「あぁ、そうなんだ。」
女性は、見ず知らずの私達を快く部屋に招き入れてくれた。
*
「な、なんですって!
雪の街に柩が…!」
今まで穏やかに話していたタバサの声が上ずり、顔色がさっと青ざめた。
「そうなんだ。
それで、俺達は、昔、この町の裏山の墓地が壊れた話を聞いて、それで商店街でいろいろ話を聞いたんだ。
そしたら、ここに長生きの老人がいるから詳しいことを知ってるんじゃないかって教えてくれた人がいて…」
「……な、なんてこと…!」
タバサの全身はがたがたと小刻みに震えており、その驚きようはどう見ても尋常なものではなかった。
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