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「き、きっとそれだ…!
その人だ!!」
リュックは上ずった声を上げた。
詰め所にいたのは、宿の主人と同じくらいの年齢に見える老人だった。
彼は、元々は隣村に住んでいたのだが、結婚を機にこの街に移り住んだということだった。
彼がまだ少年だった頃に、町を酷い台風が襲った。
その時に裏山の墓地の一部が崩れ、その後、どうしてもみつからなかった柩が一体だけあったと言うのだ。
「あの頃のわしは…確か、十五か十六だった。
そりゃあもうえらく大きな台風だったから、町はどこもめちゃくちゃになっていた。
しばらくは、皆、町の修復に一生懸命で、裏山のこともすぐには気付かなんだ。
だが、墓参りに行こうとした者か誰かが知ったんだろうな。
それから、町は大騒ぎになって、土砂の中から流された柩を見つけ出したらしい。
わしは、子供だからということで見に行ってはいかんと親に諭されていたから詳しい状況はわからんが、とにかく大変な状態だったらしいぞ。
その時に一つだけどうしてもみつからない柩があったんだ。
確か、まだ若い女の人で急な病で死んだばかりだったという。
それも、もうじき結婚する事になってた人らしくってな。
だから、それが未練で生き返ったんじゃないかなんて噂が持ち上がった程だったよ。」
老人は、結婚してからも隣町にはよく行っているが、その後も結局その柩がみつかったという話は聞いていないと語った。
「結婚話が出てたってことは、あんたより年上だってことだよな。
それじゃあ、あの遺体の身内ももうこの世にはいないかもしれないなぁ。」
自警団の団長は、眉間に皺を寄せ、困惑したような声を出した。
「団長!俺達、今から隣町まで行ってみるよ。」
「いや、そんなことなら俺達が…」
「俺は…彼女に頼まれてるから…」
「え…!?」
「マルタン!行こうぜ!」
怪訝な表情を浮かべる団長のことを少しも気にすることなく、リュックは走り出した。
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