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老人からあの女性が教会に移されたことを聞き、私とリュックは、慌しく朝食をかきこむと、早速、教会へ向かった。
その道すがら、あの女性のことを声高に立ち話をする者達の声を耳にした。
噂話の広がる速度は信じられない程、早い。
昨日のことがすでに街中に広まっているとは…
しかし、そういうことも悪い面ばかりだとは言えない。
多くの人が彼女のことを知れば、なんらかの手掛かりが得られるかもしれないのだから。
教会に着くと、すでに興味本意と思われる人々が大勢詰めかけ、若い神父が懸命になって対応していた。
私達は、あの場所で彼女をみつけたという事情を話し、特別に地下の霊安室にいる彼女に会わせてもらえることになった。
「……良かった…
綺麗な柩に入れてもらえたんだな…」
リュックはそう言って、そっと目頭の涙を拭う。
小さな祭壇には百合の花が飾られ、その前で、彼女は真新しい柩に寝かされていた。
「あなた方のお陰です。
彼女もきっとあなた方に感謝していますよ。」
先程見かけた神父よりやや年配な神父が、穏やかな笑顔を浮かべた。
「ありがとう、神父様。
いろいろと世話になったな。」
「いいえ。私は自分のやれることをやっただけです。」
どこかひんやりとした空気の中、私達は神父とあたり障りのない会話を交わした。
彼女をみつけるきっかけになった夢の話を話しても良いものかどうか、リュックも決めかねているようだった。
「そうそう…自警団の方がこれを…」
神父が祭壇の片隅におかれた小さな袋を私達に差し出した。
中に入っていたのは、金の指輪だった。
少し汚れてはいるが、それは長年土砂に埋まっていたからだろう。
私とリュックはそれを見て、思わず顔を見合わせた。
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