「マルタン!起きたか!」

次の朝、待ちきれない様子でリュックが私に声をかけた。
まだはっきりとしない頭で、リュックはまたなにかあの女性の夢を見たのだろうと、私はぼんやりと考えた。



「おはよう、リュック。
どうしたんだ?
またあの女性が出て来たのか?」

まだどこか重い瞼をこすりながら、私はリュックに声をかけた。



「そうなんだ!
昨夜は、あの女性だけじゃなかった。
黒い髪の男と一緒にいた…
二人は手を繋いで、とても嬉しそうな笑顔で俺に手を振るんだ。」

「でも、あの女性の引き取り手はまだみつかってないんだぞ。」

「……そうなんだよな。
だけど、きっとあの人が会いたがってたのはあの男だと思うんだ。
そうでなきゃ、二人があんな幸せそうな顔をしてるわけがない…」

リュックは夢の中の二人を思い出しているのか、視線を宙に泳がせ、そう言った。




「……そうか。
それで、相手はどんな男性だったんだ?」

「黒い巻き毛で…背はそんなに高くない。
なんていうんだろ…人の良さそうな顔つきの男の人だった。
真っ白なスーツを着て…」

「真っ白なスーツ…?
リュック……もしかしたら二人は恋人同士で結婚式を挙げたかなにか…そういうことじゃないんだろうか?
そうでなければ、男性が白いスーツを着ることはそうそうないと思うんだが…」

「なるほど…!
二人はそれを俺に伝えてるってことか…
でも……そうなると、あのあたりにもう一人の遺体があるってことなのか?」

リュックの言葉に私ははっとした。
そういう可能性もあるかもしれない。
しかし、あの女性の会いたがっていた相手がその男性だとしたら、近くに男性の遺体があるのは不自然なように思える。
だとすれば、考えられるのは、二人の遺体はなんらかの事情で離れ離れになってしまったということなのか?
それとも、意図的に誰かに引き離されたというのか…
死んでからまでなお引き離されたことを女性は悲しみ、リュックに救いを求めたのだろうか?
もしもその仮定が当っていれば、あの近くにはきっと男性の遺体はない筈だ。

考えれば考える程、新たな疑問が増えていく。
もしかしたら、この深い謎はこの先もずっと解けないままなのではないかと、私には思えた。


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