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柩は、結局、街の診療所に運ばれた。
街の医者の診立ても、クロードと同じものだった。
柩は相当古いこともあり、朽ち果てたそれからは手掛かりらしいものは何もみつからない。
老人の言った通り、この街では一度も殺人事件等はなく、行方不明になった者もいないとのことだった。
「しかし、一体、どういうことなんでしょうね。
あの柩はなぜあんな所に…」
いつもとまるで変わらない様子で夕食を口に運ぶのはクロードだけだった。
私達はどうも気分が沈みこみ、あまり食欲はわかず、食べても味が良くわからない程だった。
「……あとは、彼女を会わせてやるだけだが…
けっこう大変そうだな。」
「彼女?あの遺体のことですか?
誰に会わせるというのです?」
「そ、そりゃあ、彼女の家族にだよ。
それに、先生、遺体なんて言うなよな!
彼女だってもとは血の通った人間なんだ…
しかも、彼女はあんな所でずっと一人でいたんだぞ。
……可哀想じゃないか。」
クロードは、苦笑いを浮かべて小さく肩をすくめた。
彼からすれば、遺体がどんな場所に置いてあろうが、それが長い間、誰からも気付かれなくとも、それに同情心を感じることはないだろう。
彼は、死んだ者には心など存在しないと思っているのだから。
「本当に可哀想ね…
早く、ご家族の所に帰してあげたいわ。」
クロワの呟きに、クロードは少し驚いたような表情を浮かべたが、何かを言うことはなかった。
「クロワさん、ありがとう。
俺、絶対に彼女を家族の元へ帰してみせるよ。」
クロワは黙って頷き、クロードは二人のやりとりから目を逸らすようにして、グラスのワインを飲み干した。
これからが大変なのだろうが、とりあえず、リュックの見た一連の夢の相手に辿り着く事は出来た。
長い間、誰にも気付かれなかった彼女がようやく本来の場所へ戻れる日が来たのは、偏にリュックのお陰だ。
彼女の心の叫びに…血を吐くような悲痛な叫びにやっと気付いてくれる人物が現れたのだ。
そのことを彼女がどれほど喜んでいるかと考えると、私はじんわりと胸が熱くなるのを感じた。
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