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破れた場所から中をのぞき見ると、その中はやはり空ではなかった。
「さわっちゃいかん!
すぐに、自警団の者を…いや、神父さんの方が良いか…」
老人は、すっかり慌てふためき、両手で頭を抱えていた。
「リュック…」
こんな時におかしいかもしれないが、いつの間にかリュックの涙も止まり、いつもと変わらない様子になってることに気付いて私はほっと安堵した。
「間違いない……きっと彼女だ。
だけど、あんた、なんで…」
リュックは、なんでここに柩があることがわかったんだと聞きたかったのだろう。
ちょうどその時、クロワとクロードの声が耳に届き、彼の言葉は中断された。
二人はこちらの状況も知らず、にこやかに手を振っている。
「せんせーい!
ちょっと来てくれ〜!」
リュックは口許に両手をあてがい、クロードを呼びつけた。
*
「どうしたんです、これは!」
当然のことながら、クロードとクロワは思わぬ場所にあった古い柩に、目を丸くした。
「先生、ちょっと見てくれるか?」
リュックはそういうと、柩の片側に周り込んだ。
蓋を開けようとしていうことを悟った私は、彼の反対側に行き、同時にその蓋を持ち上げた。
少し力を入れただけで蓋ははずれ、木片が幾つか崩れ落ちた。
その瞬間、老人は顔を背け、クロワは険しい顔をしながらも柩の中をみつめていた。
クロードは表情一つ変えず、柩の中をのぞきこむ。
土砂にまみれ、柩に眠っていたのは、すでに茶色く変色した骨となった遺体だった。
茶色いぼろぎれのようなものが、その周りにまとわりついている。
「これはまたずいぶんと古い遺体ですね。
体格からして女性ですね。
おそらく、まだ若い頃に亡くなっている。」
クロードは躊躇う事もなく骨に顔を近付け、時には位置を変えて観察し、そう言った。
「見ただけでそんなことがわかるのか!?」
「僕は一応医者ですからね。
骨盤や頭蓋骨等から男女の判別は簡単ですし、歯を見ればおおよその年齢もわかるのですよ。
……しかし、なぜ、柩がこんな所に?」
「それはまだわからないんだ。
誰かがこの人を殺して埋めた…に、しちゃあおかしいよな。
こんな所に埋めるはずがない。
なぁ、爺さん、何か思い当たることはないか?」
老人は柩の方を振り返る事なく首を振る。
「この街にはそんな物騒な話はないと言うたじゃろ。
とにかく、早く自警団に知らせねば!」
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