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「そっちに行ってはいかん!」

老人が近付いてくると、叫んでいた言葉もはっきりと聞き取れた。



「どういうことだ?」

意味がわからずに、私とリュックが顔を見合せていると、ようやく老人が私達の所に辿り着いた。



「なんで、こっちに行っちゃいけないんだ?」

老人は弾んだ息を整えると、意外なことを口にした。



「そ、そのあたりには木の精霊がおるからじゃ。」

「精霊……?」

「そうじゃ。
気が付かんかね?
そこの木は、他の所のものよりも一際大きいじゃろう?
それに、花が小さい。
おそらく、そのあたりの木が最初に植えられた木だとされておる。」

「だから、そこの木には精霊が棲んでるって言われてるのか?」

「いや、違う。
……実はな…ずいぶんと昔のことじゃが、その木の下で女を見たという者がいた。
そんな話、特に誰も気にはせなんだが、それから何年もしてうちの宿に泊まった男が同じことを言ったんじゃ。
それだけじゃない。
その直後に、またまた宿の泊り客で同じことをいう者がいたんじゃ。」

老人の思いがけない話に、私達は息を飲んだ。



「そ、それで、その精霊っていうのはどのような姿をしているのですか?」

「なんでも、美しい女の姿をしているそうじゃ。」

「もうちょっとなにかないのか!?」

「そう言われても…わしは見たことがないから詳しくはわからんが…
……そういえば、天使のような白いドレスを着てたと言っていた!
うん、そうじゃ。
茶色い髪をした若い女の姿をしていたということじゃ。」

リュックが、私の方を向いて頷いた。
やはり同じだ。
私は髪の色や顔まではっきり見たわけではなかったが、リュックの見た女性の話と酷似している。
リュック以外の者までが見たというのなら、やはりここになにかその女性に繋がるものがあるはずだ。
しかし、それとは別に新たな疑問がわきあがっていた。
ここではその女性は粉雪の木の精と思われているようだが、それではなぜリュックはそんなものに呼ばれたのだろう?


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