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これといったあてもなく、そこらを歩いてた私達は、いつの間にか昨日山頂から見下ろした川のほとりに出ていた。
清らかな水が緩やかに流れるその川は、思ったよりも川幅もあり、簡単なものではあるが小さな橋も架けられていた。



「ここを遡っていけば、あの町につながってるんだな。
近道だって言ってたけど、どのくらい違うんだろうな?」

「リュック…あれが隣町の裏山じゃないか?
だとすればずいぶん近そうだな。」

「だけど、山を越えて町に入るのにまた少し時間がかかるだろうし、近道って言ったってそれほどのこと……」

突然、言葉が途切れたことを不審に感じ、私はリュックの顔をのぞきこむ。
そして、彼のみつめる視線の先を見た時に、私は想わず息が止まりそうになるのを感じた。



「あ……!」

「マルタン、あんたにも見えるのか!?」

「え…い、いや…」

「あ…消えた……」

リュックの視線は川の向こう側の粉雪の木の群生する場所に注がれており、私はそこでほんの一瞬だがあの女性を見たのだ。
それは、目の錯覚かと思う程一瞬のことだったが、リュックの言葉を聞いて、私はそれが錯覚ではなかったことを知ることとなった。
リュックには、私より長い間、そしてもっと鮮明に見えていたのだと思う。



「マルタン、今、あそこに…
あそこに、あの女の人がいたんだ!」

リュックは、そう言うと駆け出し、私もその後を追った。
怖いと思う気持ちもあったはずだが、それよりも、どうしてもそこへいかなくてはならないという強い想いが私を突き動かしていた。
橋を渡り、向こう岸に着いた時、老人の呼び声が私達の耳に響いた。
老人は、手を振りながら何事かを叫び、私達の方へ走って来ていた。



「どうしたんだろう?」

「クロワさんの探してた薬草がみつかったんじゃないか?
……タイミング悪いな…」

それは私も同じ気持ちだったが、かといって、老人のことを放っておくわけにもいかず、私達はその場に留まり、老人がやって来るのを待った。


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