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「爺さん、山菜もずいぶん採れたことだし、ここらで少し休まないか?」

「……そうじゃのう。
今日は、三人じゃからちょっとの間にたくさん採れたのう。」

老人はかごいっぱいになった山菜を見てにっこりと微笑み、リュックは、私に小さく目配せを送った。
私はその合図に黙って頷き、二人の所へ向かった。



「爺さんはこの町で生まれ育ったんだよな?」

水筒のお茶を老人に差し出しながら、リュックはなにげなく話を切り出した。



「あぁ、そうじゃ。
生まれてからこの方、この町を出たことがないんじゃ。
わしもあんた方みたいにいろんな土地を旅してみたいと考えたこともあったが、家が宿屋をしとったせいでそうもいかず、やっと自由な時間が持てるようになったと思ったら、もうこんなに老いぼれてしまってな…」

老人は昔を懐かしむように視線を遠くに泳がせながら、ぽつりと呟く。



「でも、それも幸せな人生だと思うぜ。
今はあの宿屋はあんたの子供が引き継いでくれてるんだろ?
そして、その先は孫が引き継ぐ…
そうやって、宿屋も命も繋がっていくなんて、幸せなことだと思うぜ。」

リュックをみつめる老人の顔が、一瞬驚いたような表情から笑顔に変わった。



「あんた、わしの孫くらいの年なのに、えらく大人びたことを言うんじゃな。
確かにそうじゃ。
わしは、今、この年になって後悔することはなにもない。
そんな風に思えるようになるには長い年月がかかったが、あんたの言う通り、宿屋は娘夫婦が切り盛りしてくれている。
孫も一人は出て行ったが、一人は宿を手伝ってくれている。
わしはこうして身体も元気でこんなことをやってられる。
……何の不足もない、幸せな人生じゃ。」

「そうだな…俺は爺さんがうらやましいよ。」

「何を言うとる!
あんたの人生はこれからじゃないか!
何も安定だけが人生じゃないぞ。
若いうちはいろんなものを見て、いろんなことを体験するのが今後の人生の糧となる。
今は、なんでもあんたのしたいようにするとええ。」

そう言うと、老人はリュックの背中を威勢良く叩き、リュックはそれに苦い笑いを浮かべた。
リュックの漏らした言葉は本音だったのだろうが、老人がそのことに気付く道理はなかった。
リュックは、傍目にはまだ年若い青年なのだから。


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