「そうだ…粉雪の木の下に彼女がいた。
泣きながら私に向かって手を伸ばしてきた。
私は怖くなって逃げようとして…それで…」

「……同じだ…」

「え…?」

「俺も同じ夢を見た。
いや、全く同じってわけじゃないんだが、俺が見た夢の中でも彼女は粉雪の木の下で泣いていた。
誰かに会いたいってそれを必死に言うんだが、その名前が聞き取れない。
俺は、何度もその名前を問いただしたんだが、最後までそれがわからないままに目が覚めたんだ。
あんたも同じ夢を見たってことは、やっぱり、彼女はこの街に関係があるってことなんだろうな。」

私には即答は出来なかった。
確かに、リュックの言う通りにも思える。
しかし、これほど珍しい木を見たのは初めてのことなのだから、それが記憶に強く残って、彼女の夢と混ざり合ってしまったということも考えられる。
やはり、まずは先入観を捨て、この街で何か事件がなかったかを聞きこむことから始めた方が良さそうだ。
この宿の老人なら、昔のことも知ってるだろうし、話好きでもありそうなので聞きこむには打って付けの人物だ。
そんなことを考えている時、不意に扉を叩く音が響いた。



「……こんな早くに誰だろう?」

リュックが出てみると、そこにいたのはクロワだった。
早く裏山に行きたくて仕方がないらしく、私達がもう起きてることを知ると安心して戻って行った。



「クロワさん、えらく張り切ってるな。
……だけど、どうする?
クロワさんはきっと一日中でも山にいたがると思うけど、俺達は早く切り上げて街の方で話でも聞いてみるか?」

「それなんだがな、リュック。
ここの老人に聞いてみたらどうだろう?
あの人なら、昔のこともよく知ってるんじゃないだろうか?」

「なるほど…そりゃそうだな。
あの爺さんはずっとこの街で育ってるようなこと言ってたし、クロワさんはほっといても一人で薬草でも摘んでるだろうし…あ、先生がいるか。
それじゃあ、なおさら心配ないな。
よし、そうしよう!
そうと決まれば、早く行こうぜ。
クロワさんが待ちわびてるだろうからな。」

「そうだな。」

今日の予定はすんなり決まり、私達は急いで食堂へ向かった。


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