「どうじゃな?
これは、今朝、裏山で採って来たばかりの山菜なんじゃ。」

「とっても新鮮でおいしいです!
裏山にはこんな山菜もたくさん生えてるんですか?」

老人の問いかけに、クロワが真っ先に答えた。
こういう時は、いつもリュックが答えるものなのだが、クロワが答えたということは、おそらく本心からそう感じているのだろう。
私はどちらかといえば山菜は好きな方ではないが、新鮮で味が良いということはそんな私にもよくわかった。



「あぁ、わんさか生えとるよ。
じゃが、山菜は毒のあるものもあるからうかつにとるのは危険じゃ。」

「なに言ってんだよ。
俺は、長い間、山菜やきのこを採って売ってたんだ。
毒のあるものかどうかなんて一目でわかる。
それに、クロワさんは薬草については玄人だからな。」

「長い間…か…
何年やってたのか知らんが、その若さではそれほどの年月ではなかろう。
過信するのは危険じゃ。
山菜の中には、食べられるものとそっくりでありながら毒を持ったやつがたくさんあるからのう。」

無理もない。
見た目には私達よりずっと若く見えるリュックが、それほど長い間、山菜を採って生計を立てていたとは誰も思わない筈だ。
リュックも、困ったような表情をうかべるばかりで、特に言い返しはしなかった。



「山菜だけじゃあない。
裏山には薬草もたくさん生えとるぞ。
わしは薬草にはそれほど詳しくはないが、この周辺だけにしかない薬草も生えとるらしい。
年に何度か、遠くの町からわざわざここへ採りに来る薬師がおるくらい……あ……」

「どうしたんだ?」

不意に口許を押さえ、黙りこんだ老人に皆の視線が集まった。



「この話は言わないようにと、その薬師に言われてたんじゃった…
年を取ると、忘れっぽくなっていかんのう…」

「大丈夫です!
私、どんな貴重な薬草をみつけても誰にも言いませんから…!」

「そうかい、そうしてくれれば助かるよ。」

薬草の話を聞いて、クロワの顔がぱっと輝いたことを私は見逃してはいなかった。
この分では、明日はきっと一日中裏山で過ごす事になるだろう。
今夜は早めに休んでおいた方が良さそうだが、気がかりなのはリュックの夢の女性だ。
彼女はここにも現れるのか、それとも、あの町を離れたことでもう終わってしまったのか…
それがきっと今夜にははっきりするのではないかと考えると、とてもゆっくり眠れそうにはなかった。


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