043 : 雪の街1
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「馬鹿なことを言うんじゃないよ!
うちにはそんなもの、一度たりとも出たことはない!」
次の朝、宿を出る時に、私は忘れ物をしたふりをして一人宿に戻り、宿で何か事件はなかったか、そして、率直に女の幽霊について主人に尋ねた。
主人は、そんなことはいまだかつてなかったときっぱりと否定し、私がまるでいちゃもんでも着けているかのように受け取られてしまった。
私は、なんとか主人をなだめ、この町でなにか事件はなかったかとあらためて聞いてみたが、そのようなこともなく、強いて言えば、昔酷い台風が来たことはあったが、死者が出たということもなく裏山が崩れただけだということだった。
てっきり、あの女性はこの町に縁のある人物だと思い込んでいた私の推測は的外れだったようだ。
「マルタンさん、忘れ物はありましたか?」
「はい、お待たせしてすみませんでした。」
「じゃあ、そろそろ出発しましょうか。」
結局、女性については何の手掛かりも得られないまま、私達は町を離れた。
「……マルタン、どうだった?
何かわかったか?」
私とリュックは、クロワ達からわざと少し遅れて歩き、ひそひそと声をひそめて会話を交わした。
「それが、何もないらしいんだ。
嘘を吐いてるようでもなかった。
今まであの宿屋で幽霊騒ぎなんてものもなければ、町でなにか悲惨な事件があったということもないらしい。」
「そうか…手掛かりはなしってことか…
俺も、あんたを待ってる間、そこらの店でちょっと話を聞いてみたんだけどな。
昔、大きな台風が来たってことだけで…」
「あぁ、それなら私も聞いた。
だが、死者の一人も出なかったと言っていたぞ。」
「そうそう、俺もそう聞いた。
店の屋根がふっ飛んだ程の大きな台風だったとか言ってたが、死人は出てないって言ってた。」
「伝説のようなものもなさそうだしな…」
「そういえば……」
「あら?二人でこそこそ何のお話?」
リュックがなにかを言いかけた時、突然、クロワが私達の所へやってきてリュックの話は中断された。
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