「リュック…どうかしたの?」

朝食の席でクロワがリュックに声をかけた。
それもそのはず。
いつもなら朝からよく食べ、よくしゃべる彼がほとんど話をせず、その上、フォークを持ったままじっと一点をみつめていたのだから。



「えっ……?」

「リュック、どうかしたのか?」

「体調が悪いなら、診察しますが…」

「お、俺はなんともないよ。
ちょっと考え事をしていただけだ。」

そう言うと、リュックはフォークに刺さっていたオムレツを口の中に押し込んだ。



「リュックが考え事なんて珍しいわね。
雨でも降らなきゃ良いけど……」



クロワのそんな冗談が、じきに本当になってしまった。
朝食を食べたらすぐに宿を発つ予定だったが、雨足は勢いを増していく…雨が小降りになるまで、私達は出発を延ばすことにした。







「マルタン…ちょっと良いか?」

「……あぁ、構わないぞ。」

各自が部屋に戻り、私がぼんやりと窓の景色を眺めていると、不意にリュックが部屋を訪ねた。
つい今しがた別れたばかりなのに、なにか忘れ物だもあったのだろうかと思ったが、そうではないらしく、リュックはどこか落ち付かない様子で長椅子に腰を掛けた。



「マルタン、ちょっと飲まないか?」

そう言ってリュックは酒瓶をテーブルに置いた。
こんな時間から、しかも、雨が上がったら出発することになっているにも関わらずリュックが酒を飲もうと言い出したのにはきっと理由がある。
今朝の様子を考えても、それは間違いないだろう。
私は、ゆっくりとグラスを傾けながら、リュックが口を開くのを待った。



「あのな、マルタン……俺、昨夜、おかしな夢を見たんだ…」

「夢……?」

リュックの言葉は意外なものだったので、私は思わず問い返していた。
リュックは黙ったままで小さく頷く。



「それが…なんだか妙に気になる夢だったんだ。
若い女が、俺に必死になってなにかを言うんだ。
涙を流しながら、はっきりとはわからないが、多分、誰かに会いたいって…そんなことを言ってるんだが、それが本当にものすごく必死なんだ。
でも、俺はその女が何者で誰に会いたがってるのかわからない。
それで、どうしたら良いのかわからないくて困ってたんだ……そしたら、目が覚めた。」


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