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「ビル……こんな所で……!」
変わり果てた姿になった友人の前で、マーチンは泣き崩れた。
朽ち果てたその顔にはもう黒いあざも確認出来ないありさまだった。
マーチンは、考えた末にその村の共同墓地にビルを埋葬した。
イングリットに彼の遺体を見せるのは、あまりに酷だと考えたのだ。
彼が死んだことを知れば、イングリットがさらに深い傷を負う事も懸念された。
声が出なくなるほど傷付いている彼女に向かって、彼の死を伝えることはどうしても出来ないと考えたのだ。
(ビル…少しだけ待っておくれ。
イングリットがもう少し落ちついたら、彼女にすべてを話す。
そして、君をバーグマンさん達の所へ連れていくから…)
マーチンは、ビルの墓前で彼にそう誓った。
しかし、町に戻ったマーチンはイングリットから思いがけない事を知らされた。
ビルを愛していると…イングリットの手紙にはそう書いてあったのだ。
さらに、彼女はビルへの愛の証のウェディングドレスを縫い上げた。
ビルがイングリットの生きる支えになっていることをマーチンは痛感した。
ビルがすでにこの世にいないという事実を伝えることは、イングリットの命を奪うことにもなりかねない。
そう思うと、マーチンにはビルの死を伝えることは出来なかった。
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(本当にすまない…
いつか、彼女の心から君がいなくなったら、伝えようと思っていた。
だが、彼女が君を忘れる事はなかった…
あのウェディングドレスが仕舞われることはなかった。
……君には完敗だよ。
彼女の心から君がいなくなったら、私も伝えようと思っていたんだ。
イングリットを愛していると…
だけど、その日は一向に訪れなかった。
きっと、その先もずっと彼女が君を忘れることはない……)
マーチンは、立ち上がって窓を開け、澄みきった青い空を見上げた。
(ビル、君は、本当に幸せな男だね。
私は君が羨ましいよ…)
マーチンは、青い空に懐かしい友のはにかんだ笑顔を見たような気がした。
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