041 : 秘めごと1






「イングリット、疲れただろう?
私も帰るから少し休むと良いよ。」

イングリットは、慌てて首を振ると、いつものようにメモになにかを書いてマーチンの前に差し出した。



『疲れてなんかいないわ。
あんな楽しいことはめったにないもの。
マーチン、昨夜はビルのことを話してくれてありがとう。
とても嬉しかった。
今夜はご馳走するから、たくさん食べてね!』



「こちらこそいつもありがとう。
じゃあ、また夜にお邪魔するよ。」

マーチンは微笑み、イングリットに手を振りながら、隣の自宅に戻った。
自宅に戻ったマーチンは、長椅子に腰掛け、ぼんやりと物思いにふける。



(あんなに詳しくビルの話をしたのは何年振りだろう…
いや、何年どころじゃないな…何十年経ったんだろう…
……ごめんよ、ビル。
イングリットにはいつか話そうと思っていた…なのに、私にはまだ言えない…
言えないせいで、君はまだバーグマンさん夫妻とは離れた場所にいる…本当にすまない…)



マーチンは遠い昔に想いをはせた。









まとまった休暇を取り、ビルを探しに行ったマーチンは、街道からはうんとはずれたある小さな村を訪れた。
街道沿いの町はほとんど捜索したがそれで手掛かりが掴めなかったのだから、今度はそうではない場所を…と考えたのだ。
その村で、マーチンはビルらしき風貌の男を見たという農夫に出会った。
農夫の話によると、二ヶ月程前にそういう男が裏山の方へ歩いて行くのを見たというのだ。
農夫の息子が道案内を買って出てくれ、マーチンは、その少年と共に、山の周辺を探し歩いた。
思ったよりも深く入り組んだその山は、都会育ちのマーチンには骨の折れる場所だった。
その村では、いまだ事件のことは誰も知らない様子だった。
マーチンは、そのことに安堵し、ただ、行方不明の友人を探しているとだけ話した。
親切な農夫は同情し、マーチンを家に泊めてくれた。
そして三日後、マーチンと少年は谷に続く斜面で一人の男性の遺体を発見する。
すでにずいぶんと朽ち果てたその遺体は、体格やまとっていたぼろ切れのようになった衣類の特徴から、ビルであることは容易に判断出来た。


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