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リュックの舌打ちの音が聞こえ、私は彼がクロードに文句を言うのではないかと気を遣い、質問を投げかけた。



「リュックは、どう思うんだ?」

「え……?
俺も…そうだな。
やっぱりクロワさんと同じかな。
ビルさんは、イングリットさんに言われたことで大きなショックを受けただろうとは思うよ。
だから、帰り辛かったんだと思う。
そして、辿り着いたどこかの町で良い出会いがあって…今は、幸せに暮らしてるんじゃないかな…
きっと、イングリットさんの気持ちももうわかってると思うんだ。
許してくれてるさ。
……先生は、ビルさんのことを好きになる女なんていないと思ってるみたいだけど…
たとえば、相手が目の見えない女の人だったらどうだろう?
ビルさんの外見になんて惑わされずに、人柄だけで好きになることはあるんじゃないか?
見えないからこそよく見えるものってのもあるんじゃないか。」

「なるほど…見えないからこそよく見える…ですか…
リュックさん、うまいことを言いますね。」

どこか皮肉にも聞こえたクロードの言葉に、リュックは眉をひそめ不機嫌な表情を浮かべたが、あえて反論をすることはなく、私は安堵した。



「マルタンさんは、どう思われるんですか?」

「私ですか…私は……
やはり、クロワさんやリュックと同じですよ。」

私のその言葉に、リュックは満足げに微笑み、大きく頷く。
だが、私の本心は実はそうではなかった。
私には、ビルが義父をそのまま放っておくとは思えなかったのだ。
彼の人となりを聞いた限りでは、その場は取り乱して逃げたとしても、その後、落ちついてから必ず戻って来るだろうと思えた。
誰かがなんとかしてくれるとは思っても、きっと義父のことが気になる筈だ。
しかしながら、彼が町に戻った形跡がないということは…それは、おそらくどうしても帰れない事情があったとしか思えない。
それは、つまり…



「マルタン、この先だがどうする?」

リュックの声で、私は物思いから覚めた。



「え?……あぁ…そうだな。
この町で少しいるものを揃えて…それから、この先の町について話を聞いてから決めたらどうだ?」

「確か、この先は、二又になってましたよね。」

私達は、イングリットの家から少し離れた商店の建ち並ぶ通りに向かって歩き出した。


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