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「そうか…
あのウェディングドレスにはそんな想いがあったのか…
イングリットさん、すまなかったな。
辛い記憶を思い出させて…」

リュックの言葉に、イングリットは潤んだ瞳を向け首を振った。
そして、メモにペンを走らせる。



『いいえ、久し振りに彼のことを聞いてもらえて、嬉しいです。
見ず知らずのおばさんのつまらない話を聞いて下さってどうもありがとう。』

メモを差し出しながら、イングリットは目尻にたまった涙をそっと拭った。



「おや、もうこんな時間だ。
申し訳ないことをしましたね。
今夜は私のうちに泊まって下さい。
クロワさんはここに…」

「いや、そんなに気を遣わないで下さい。
この長椅子で朝まで仮眠させてもらえたら助かります。」

「でも、こんな所では…」

「俺達は、野宿することだってあるんだから、ここで十分ですよ。
それでなくてもこんなに世話になっちまって…
イングリットさん、本当にすまなかったな。」

そうしたいきさつから、私達は、結局、その日はイングリットの家に泊めてもらうことになった。







「本当にありがとう!」

「またいつでもいらして下さいね!」

次の日の朝食までご馳走になり、私達はイングリットの家を発った。
並んで手を振るイングリットとマーチンは仲の良い夫婦のように見えた。



「なぁ、ビルさんはなんで戻って来なかったんだと思う?」

「それはやはりイングリットさんに絶望したからじゃないでしょうか?
信じた人に裏切られた心の傷は大きなものです。
イングリットさんにはもう二度と会いたくないと思われたんじゃないかと思いますね。」

リュックの問いに最初に答えたのはクロードだった。



「そうかな…クロワさんはどう思う?」

「私は……そうね。
ビルさんは、イングリットさんのことを忘れようと決意して、そしてどこかの町で他の誰かと家庭を持たれたのではないかと思うわ。
だから、戻って来られないんじゃないかしら?」

「でも、クロワさん、ビルさんの顔はその……
ずっと女性に相手をされたこともなかったって話ですし、そんな人が違う町に行ったからといって誰かと家庭を持つなんてことが出来るでしょうか?」

「先生、皆が皆、人のことを見た目で判断するとは限らないぜ。
現にイングリットさんはあんなにもビルさんのことを愛してるじゃないか。」

その言葉にクロードは皮肉な笑みを浮かべた。



「リュックさん、あれは錯覚ですよ。
自分の罪悪感からそれを愛だと勘違いされてるのです。」


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