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「イングリット、昨夜から何も食べてないんだから、少しは食べないと身体に悪いよ。
……真犯人が捕まったことはすぐに世間に広まる。
そうなったら、ビルだって戻って来るんじゃないかい?
イングリット、君はビルに会って言わなくちゃならないことがいろいろあるんだろ?
その時にやつれてたら…ビルはきっと悲しむよ。
自分が君をそんな風にしたんじゃないかって、彼ならきっと気に病むと思うんだ。
急には無理かもしれない…君が落ちこむのも当然だ、そんなこと、私にもよくわかってる。
だけど……ビルのために…私の親友のビルのために、君には健康で元気でいてくれないと困るんだ!
君がビルに対して悪いと感じているのなら…罪滅ぼしをしたいと考えているのなら…
どうか、元気でいてくれ…
イングリット…頼む……どうか……」

その言葉に、イングリットははっとしたように顔を上げ、涙で潤んだ瞳を向け、ゆっくりと頷いた。
マーチンはほっとしたように僅かに微笑み、そして同じように頷いた。







それからのイングリットは、どこか少し無理をしているようには見受けられたが、つとめて明るく過ごした。

真犯人逮捕の噂は瞬く間に広がったが、ビルは戻っては来なかった。
縫いあがったウェディングドレスは、クローゼットに仕舞われることはなく、ずっとリビングに飾られたままだった。



『これは私のお守り。
気持ちが沈みこみそうになっても、私に勇気を与えてくれるお守りだから、いつでも見られるようにここに置いてあるの』

イングリットは、マーチンにそう伝えた。



何年かの時が過ぎ、娘を心配した両親が何度か縁談を持ち込んだが、イングリットの決心は変わることはなかった。
両親もいつしかそんな娘の気持ちに根負けし、縁談を持ち込むことはなくなった。



さらに長い歳月が流れ…
イングリットの両親も数年前にすでに他界した。
それでも、イングリットはビルを愛し続け、彼の帰りを待ち続ける…
その気持ちは今も少しも変わりなく…彼がいつか帰ると信じ続けて待っている…





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