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「……ビルはいつも目が覚めるとすぐにバーグマンさんの様子を見に行ってたらしいから、そこでバーグマンさんの遺体を見て驚いて…凶器のナイフをバーグマンさんの胸から抜いたのだろうね。
そして、その現場をちょうどメイドに見られた。
悲鳴を上げたメイドに、ビルはきっとパニックを起こしてしまったんだろう。
誰だって、自分の家族のそんな姿を見たら取り乱すさ。
彼は、わけもわからないままその場から逃げて…」
イングリットは、その場に泣き崩れた。
マーチンにはイングリットの悲痛な慟哭が聞こえるようだった。
傷付き追い詰められたビルが、信頼し頼って来た唯一の光…その光であるイングリットに拒絶され罵られたのだ。
ビルのその時の気持ちを考えると、マーチンは心が痛んだ。
しかし、そういう事態になったのは何もイングリットだけのせいではない。
自分がその場にいたら…そう思うとマーチンは自責の念にかられた。
「イングリット…
仕方がなかったんだ。
君が悪いわけじゃない。」
どんなに優しく慰められてもイングリットの涙は止まらなかった。
マーチンは、そんなイングリットにずっと寄り添っていた。
*
やがて、長い夜が明けた。
「イングリット…今朝は私がなにか作るよ。」
俯いたまま首を振るイングリットに、マーチンはさらに言葉を続けた。
「顔を洗っておいで。
せっかくの美人が台無しだよ。」
しばらくして、黄身が崩れ少し焦げた目玉やきとバタートースト、レタスを千切ってドレッシングをかけただけのサラダとオレンジジュースがテーブルに並べられた。
「さぁ、食べよう。」
そう言いながら、マーチンはトーストにかぶりついたが、イングリットは、深く俯いたまま、何も手をつけようとはしなかった。
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