(イングリット…そんなことがあったのか…)

そこには、イングリットが、ビルに言ってしまった酷い言葉のこと、そして、声が出なくなったのはきっとその天罰だということが書かれていた。
そして、ビルの日記を読んで感じた様々なこと…
ビルがいかに純粋な人間で、少女やバーグマンさんを殺す筈がないと感じたことや、今まで誰にも話したことのなかった婚約者や友人の裏切りのこと、そのためにまた自分がビルのことを信じすぎているのではないかと想い、間違った判断をしてしまったことが書かれており、最後には、さらに衝撃的なことが書かれていた。



『私は、やっと気付いたのです。
いつの間にかビルのことを愛していたことを…
私はいつまでもビルの帰りを待つつもりです。
そして、ビルが帰って来たら自分の気持ちをはっきりと伝え、プロポーズをするつもりです。
女の私からプロポーズなんて、はしたないかしら?
でも、私はもう決めたんです。

私の声は、ビルに会ったら急に出るような気がします。
私の想いを伝えるために、きっとその時が来たら私の声は出るようになる筈です。
私はそう信じてます。』



(イングリット……)







次の朝、マーチンはイングリットの家を訪ねた。



「イングリット、おはよう…手紙読んだよ。」

イングリットは、決まり悪そうに微笑みながら俯いた。



「君の気持ちはわかるけど…
君は十分反省した。
……それに、事情もよくわかった。
だけど、声が出なくなったことを天罰なんてそんな風に思うのは…」

イングリットは顔を上げ、眉間に皺を寄せて何度も首を振る。



「わかったよ…
今は君の思うようにしたら良い。」

マーチンは、イングリットの気持ちを察し、それ以上その話をするのをやめた。







やがて、二週間程の時が流れ…
あの手紙を読んで以来、どこか気まずい雰囲気を感じ、以前のように気軽にイングリットの家に行く事が出来なかったマーチンの元に、イングリットがやってきた。
一緒に夕食を食べないかという誘いに着いて行ったマーチンは、彼女の家のリビングで目を丸くした。



「イングリット、これは…!?」

そこに飾られていたのは純白のウェディングドレスだった。
以前から手がけていたものがやっと縫いあがったと、イングリットは無邪気な微笑を浮かべる。
そのドレスからそっと目を逸らしたマーチンの心の中は、複雑な想いに揺れ動いていた。


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