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(そんな…私、宝石のことも足跡のことも聞いてないわ…
どうして教えてくれなかったの…)

マーチンの言葉を聞くに連れ、イングリットの心の中は揺らぎ始めた。



「……あなた方は、先入観を…いや、悪意を持ってビルのことを見ていたから、そんなことすら見過ごしたんじゃないんですか!
私は…そしてここにいるイングリットは本当のビルのことを知っている。
ビルがどれほど純粋で心の優しい男かということを私達は知っている!
彼が罪を犯すような人間ではないことを…!
イングリット…君からも言ってやってくれ!」

いつもは冷静で穏やかなマーチンが、声を荒げ、心の底から真剣にビルを擁護している姿を見て、イングリットは胸が締めつけられる想いだった。
マーチンの言う通り、ビルのことを信頼していたはずなのに、いつの間にか周りの意見に流されてしまった自分自身をイングリットは恥じていた。



(私…なんてことを……
なんて酷いことを言ってしまったの……!)



「イングリット…?
どうしたんだい?」

「私……」

「ごめん…今日はいろんなことがあって大変だったのに…」

頭を抱えてうな垂れるイングリットに優しく声をかけると、マーチンは再び鋭い視線で男達を睨み付けた。



「もう一度、最初からしっかりと調べて下さい。
そうすれば、彼が犯人じゃないことがはっきりするはずです!
……今日はもうお帰り下さい。
もう遅いですし、見ての通り、彼女はとても疲れている。」

自警団の男達は、マーチンの言葉に素直に従った。







「イングリット、今日はもう休んだ方が良い。
私はリビングにいるから、心配しなくて大丈夫だよ。」

「マーチン…私……」

「ブランデーでも少し飲むと良いよ。
今、持って来るね。」

ビルに言ってしまった言葉、ビルを信じきれなかった事…
イングリットは、心の中に溜まった重いものを吐き出したい衝動にかられたが、マーチンの優しさがそれを邪魔した。
マーチンがビルに対して揺るぎ無い信頼を保っていたことも、その一因かもしれなかった。



(ビル…ごめんなさい…
私は…取り返しの付かないことをしてしまった…)

イングリットの頭の中には、幾度となく同じシーンが思い浮かぶ。
自分の発した酷い言葉…そして、絶望したようなビルの涙…

強いブランデーも、その夜、イングリットを眠りに誘うことは出来なかった。


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