14
「イングリット!」
「マーチン!」
イングリットは、マーチンの胸に飛び込んだ。
今までの不安や高ぶった緊張感が、マーチンの顔を見た途端、堰を切ったように噴き出した。
声をあげ、子供のようにマーチンの胸で泣きじゃくるイングリットの背中を、マーチンは優しく撫で続けた。
*
「イングリット、少しは落ちついた?」
「ええ…ありがとう、マーチン。」
イングリットは、マーチンの煎れたハーブティを飲み干した。
「イングリット、ちょっと話をして良いかな?」
マーチンが話をは始めようとした時、玄関の扉を叩く音がした。
「私が見て来よう。」
マーチンはすぐに二人の男を伴なって戻って来た。
「イングリット、自警団の人達だ。
ちょうど良かった。
私もお話を伺おうと思っていたのです。」
男達は、もう少しの所でビルを取り逃がしたことを残念そうに報告した後、イングリットにビルのことを尋ねた。
イングリットが答えようとすると、その声をマーチンの言葉が遮った。
「ちょっと待って下さい!
あなた方は、根本的な間違いをしている。
ビルは犯人ではありません!」
「何を言うんだ!
ビルがバーグマンさんの亡骸の前でナイフを持って立ち尽してる姿を、あの家の使用人が見てるんだぞ!」
「だけど、その時、すでに宝石等が盗まれていたそうではないですか!」
「だから、それはビルが持ち出そうとした所を、バーグマンさんに咎められて…」
「ビルが、そんなものをもっていたなんて聞いていない。
メイドが声を上げたら、ビルはナイフを放り投げて逃げ出したと言ってましたよ!」
「それは…多分、宝石はポケットかなにかに入れて…」
「盗まれたのはそんな僅かな量ではないでしょう!
それに、あの部屋には泥の着いた足跡があった。
ビルのものとは明らかに違うものだった。
あれほど泥が着いてたことからも、外から来た者の足跡だということは明らかでしょう!」
「し…しかし、あの部屋にはメイドや医師も出入りするんだぞ!」
「メイドや医師が、そんな泥だらけの靴で部屋に入るとお思いですか!」
マーチンと男の言い合う姿を目にしながら、イングリットは身体から血の気がひいていくような思いを感じていた。
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