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呆然としている間にも時は過ぎ…昼を少し過ぎた頃、朝訪ねて来たのとはまた別の男がイングリットの家にやって来た。
男は、イングリットにビルとの関わりについてあれこれと尋ね、万一の事があっては危険だからと、今夜は信頼の出来る友人の所か、町の宿屋に泊まるようにと言いつけた。



「ビルは、まだみつからないんですか?
本当にバーグマンさんを殺したのは、ビルなんですか?」

「あぁ、間違いない。
あの家の使用人が、バーグマンさんの亡骸の前で、血の付いたナイフを持って突っ立ってるビルを見たって言ってる。
しかも、ビルはそこから逃げたんだ。
何もしてないなら逃げる必要もないだろう。」

男の話を聞くと、その状況ではビル以外に犯人は考えられないような気がした。
しかし、いつもの彼の態度を思い起こすとイングリットにはやはり彼がそんな大それたことをするとは思えなかった。
バーグマンとビルの関係も、実の親子以上に親密なものに感じられていただけに、イングリットの心の中は混乱するばかりだった。



「……あのビルが……」

「ビルは、あんたに夢中になってたみたいだからな。
使用人の話によれば、前夜、バーグマンさんとビルは少しいさかいがあったようだ。
いつもは喧嘩一つしないらしいんだが、『そんな話は聞きたくない』と言って、ビルがバーグマンさんの部屋から出て来たらしいんだ。
……おそらく、バーグマンさんはビルがあんたに夢中になってるのを知って、諦めるように言ったんじゃないだろうか?
どうせ望みのない恋だ。
早めに諦めさせようとしたんだろうな。
だが、ビルはそんなバーグマンさんのことを逆恨みして……」

「そんな……」

男の言葉はイングリットの心に刃のように突き刺さり、イングリットは溢れ出る涙をハンカチで抑え込んだ。
男にそんな意図はなかったが、イングリットにはまるで「バーグマンが殺されたのはおまえのせいだ」と責められているかのように聞こえたのだ。



(私のせいで、ビルはそんな恐ろしいことを…
私はそんなに悪い事をしてしまったの?
ビルには、もっと冷たくするべきだったの?)

考えれば考える程、イングリットの涙は止まらなくなっていた。


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