「そ、そんな大切なもの、いただけないわ!」

「そう言わずに…これは君に対する父の気持ちなんだ。
どうか、気持ち良く受けとってほしい。」

「でも……」

「どうか…お願いだよ。」

イングリットの手の中には、煌く大粒のルビーのネックレスが握らされていた。
それは、亡きビルの義母のもので、たいそう高価なものであることは誰の目にも明らかだった。
価格のことだけではなく、大切な思い出の品でもあることから、イングリットは受け取る事を躊躇ったが、引出しの奥に仕舞っておくよりも普段から着けてもらう方が義母も喜ぶとすがるような瞳で説得され、イングリットはついに根負けした。



「ありがとう、ビル。
私、大切にするわ。
お父様にも近いうちにまたお礼にうかがうわね。」

「お礼なんて良いんだ。
君が来てくれたら父さんはとても喜ぶけど…でも、今はやめといた方が良いね…」

そう言って、ビルは寂しそうに俯いた。



「どうして?
あの噂のこと?
そんなことなら、私、気にしないわ。
あなたがそんな恐ろしいことをする筈がないってことは、ようくわかってるもの…」

「ありがとう、イングリット。
君は本当に良い人だね。
でも、やっぱり君は俺には関わらない方が良いのかもしれない。
……とにかく、しばらく、俺もここに来るのはやめるよ。
庭のことは気がかりだけど、今はそうした方が良い。」

「大丈夫だって!
私は本当に何も気にしてないわ。
言いたい人には言わせておけば良いのよ。
ね、ビル!」

そう言いながら、イングリットが握った手をビルは振りほどいた。



「ビル……?」

「ご、ごめん……
でも、俺……辛いんだ。
こんな風に君に優しくされたら俺は……」

ビルは口篭もり、拳を握り締めたまま俯いた。



「ビル…私……」

「何も言わないでくれ!
わかってる!わかってるんだ。
君は優しい人だから…俺に同情してくれてるだけだってことはわかってる…
だけど、俺は…」

ビルはそのまま庭を飛び出した。



「ビルーーー!」

イングリットが大きな声で彼の名を叫んでも、ビルは振り返る事なく走り去った。


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