マーチンがいないことで、あまり親しくないビルと二人きりという多少の気まずさはあったが、そういう状況にも次第に慣れ、いつの間にかイングリットは違和感を感じないようになっていた。
いつも夕食を食べずに帰るビルのため、バスケットに入れて料理を持たせた所、ビルの義父も喜んでくれたということを聞き、ある日イングリットはビルの義父を見舞った。
イングリットの訪問を、ビルの義父は涙を流して喜んだ。
血の繋がりはなくともこの親子がとても強い絆で結ばれていることは、イングリットにもはっきりとわかった。
義父に接する時の心のこもったビルの態度に、イングリットは心が温かくなる思いだった。



「イングリットさん、お時間があれば、ぜひまた遊びに来て下さいね。
それと…どうか、どうか、これからもビルと仲良くしてやって下さい。
この子は、世間から誤解を受けることも多いですが、心の優しい…本当に良い子なんです。」

「父さん、何言ってるんだ。
俺は子供じゃないんだぞ。
それに、そんなこと頼んじゃ、イングリットさんにご迷惑だろ。」

「迷惑だなんて…そんなことありません。
また近いうちに寄らせていただきます。
バーグマンさん、どうか、お身体をお大事になさって下さいね。」



マーチンは、なかなか戻っては来なかった。
平和なこのあたりではめったに起こらない事件だけに、難航しているのだろうと考えていた頃、隣の町でまた少女が襲われ殺されるという意見が起こり、それから数日後、マーチンが久しぶりに町に戻った。
必要なものを取りに来ただけで、またすぐに戻らなければならないと言うマーチンは相当忙しいらしく、目は窪み、頬はげっそりとそげていた。
捕えられた犯人はずっと無実を主張して来たが、今回、同じ手口による第二の犯行が行われたことにより、その主張は信憑性を増して来たということだった。

そんな時、町ではいやな噂話が流れ始めていた。
それは、この連続少女暴行殺人事件の犯人は、ビルだという噂だった。


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