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「まぁ…そうだったの……
それじゃあ、庭のことなんて頼んでご迷惑だったんじゃないの?」
「いや、彼の家は裕福でね。
メイドもいるし、世話をしてくれる人もいるんだ。
それに、お義父さんは身体こそ動きにくいけど、今すぐどうこうなるって病ではないらしい。
だが、ビルは本心からお義父さんのことを心配してるから、傍を離れようとしないんだ。
お義父さんもそんな彼のことを逆に心配しててね。
私が訪ねて行ったらとても喜んでくれた。
そして、ビルをなるべく外へ連れ出してくれるようにと、こっそり頼まれたんだ。」
「そう…ビルさんはお優しい方なのね。」
「そうだよ。
彼はとても優しい男だ。
小さい頃からどんなにいじめられても歯向かうことはなかったし、苛めた者のことを悪くいうことさえなかった。
だけど、それは彼が弱いからじゃない。
彼は体格も良いが、とても力が強いんだ。
きっと、力と同じように心も強いから、そんな者達のことも受け入れ、赦すことが出来るんだろうね。
本当に彼は素晴らしい男だよ。」
マーチンからビルの話を聞いたイングリットは複雑な想いを感じていた。
あの容姿のせいで辛い仕打ちを受け続けて来たであろうビルへの同情心、そして、義父を思いやる優しさを持った人間なのだという尊敬にも似た気持ち、その反面、だが、あの容姿では恋人はおろか友人さえも出来にくいだろうと思うどこか彼を見下した気持ち…
(……私っていやな女だわ。
それに引き換え、マーチンは本当に良い人ね。)
「イングリット…どうかしたの?」
「い…いえ、なんでもないわ。
マーチン、シャンパンはいかが?」
「ありがとう、でも、まだ入ってるから良いよ。
それより、君、さっきから全然食べてないみたいだけど…」
「そ、そんなことないわよ!」
イングリットは目の前のジャガイモにフォークを突き刺し、口いっぱいに頬張った。
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