「あなたは……!」

数日後、マーチンが連れて来たのは、顔に痣のあるあの男だった。



「あれ…?
もしかして、君達、会ったことがあるの?」

マーチンの問いに二人は頷く。



「……実は……」

俯いたまま何も言わない男に代わり、イングリットが以前の出来事を簡潔に話した。



「そうだったのか…
ビル、それならそうと言ってくれたら良かったのに…」

「すまない。
つい言いそびれてしまって…」

「ビルさんとおっしゃるんですか?
あの時は、私…お礼も言わずに……本当にすみませんでした。」

「謝らないで下さい。
俺の顔を見れば誰だって驚きます。
いや、驚くだけじゃない……」

ビルの言葉が途切れた意味を、イングリットは容易に想像することが出来た。



「……だけど、あなたはそんな俺に傷のことまで心配して下さった…
本当に嬉しかった。
ありがとう…あなたは本当に優しい方なんですね。
俺、植物のことだけは自信あるんです。
ここをあなた好みの居心地の良い庭に仕上げて見せますよ。」

そう言って笑ったビルの顔は決して美しくはなかったが愛嬌のあるもので、気まずい気分を感じていたイングリットの心をやさしくほぐした。



「ビルさん、どうもありがとうございます。
私もお花は好きなんですが、こういうことはあまりやったことがないので何もわからないんです。
いろいろ教えて下さいね。」







「マーチン、今日はどうもありがとう。
疲れたでしょう?」

「そんなことないさ。
それより、君の方が疲れただろう?
今日はえらく頑張ってたもんね。
その上、こんな豪勢な食事までご馳走になってすまないね。」

「たいしたことないわ。
ただ、ビルさんにも食べて行っていただこうと考えてたから、今日はいつもよりたくさん作ってしまったの。
あんなに働いてもらったのに、何のお礼も出来ずに申し訳なかったわ。」

「あぁ…実は彼はね…」

食事を採りながら、マーチンはビルの身の上話を語り始めた。
彼は、まだ生まれて間もない頃教会の前に捨てられており、それを不憫に思った子供のいない夫婦が引き取り育てられたのだということ。
あの痣のせいで彼のことを良く思わなかったり苛める者は多かったが、夫婦は愛情を持って彼を育てたこと。
三年程前に、彼の義母が亡くなり、遺された義父も最近は身体の具合が悪く、そのためにビルはほとんどずっと家にいて義父の面倒をみていることを…


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