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少し経って、先程の女性と共に同じくらいの年格好の男性が居間に入って来た。
品の良い穏やかな印象の男性だ。
「初めまして。
私は、隣に住むマーチンと言う者です。」
男性は、にこやかに自己紹介をすると、私の隣に腰掛け、この家の女性は、すぐにまた居間を出て行った。
私達は、マーチンに簡単な自己紹介を返した。
「イングリットさんは、今、あなた達のために腕をふるってるようですよ。」
「まぁ、大変。
私達、リュックの着替えが済んだらお暇するつもりですのに…」
「そう言わずに、ゆっくりして行ってあげて下さい。
あの方はここにお一人で住まわれており、お寂しいのですよ。
私も一人なので、こうやってたまにお邪魔しているのですが、二人ではそう盛りあがることもありません。
だから、イングリットさんは今日はとてもお喜びなのですから。」
見ず知らずの人にそこまで世話をかけて良いものだろうかと心苦しくも思ったが、マーチンの言うことが本当なら彼女の好意を無にすることも出来ない。
私達は、素直にその好意に甘えることに決め、クロワは彼女を手伝うと言って台所へ向かった。
「あぁ〜、さっぱりした…!」
ちょうどクロワと入れ違いに、髪の毛をタオルで拭きながら、リュックが居間に入って来た。
「あ、どうも…
お世話になりました。」
マーチンに気付いたリュックは、片手を差し出す。
「リュック、良かったな。
こちらはマーチンさん。
お隣の方だそうだ。」
「えっ?旦那さんじゃなかったのか?」
そう言いながら、リュックはクロードの隣に腰掛けた。
「イングリットさんは独身ですよ。
こちらにはお一人でお住まいなんですよ。」
「そうだったのか…俺はてっきり…
あれっ?
……なんでこんな所にウェディングドレスなんかがあるんだ?」
マーチンは、その言葉に苦い笑いを浮かべ、リュックから視線を逸らした。
おそらく彼はあのウェディングドレスにまつわる話を知っているのだろう。
だが、それはきっと簡単には話せないようなことなのだ。
「なんだ、なんだ?
何か、秘密でもあるのか?」
リュックは、さらに無神経な質問を続け、私は冷や汗が流れる想いだった。
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