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女性は角を曲がってすぐの屋敷の中へ向かって行った。
「ちょ、ちょっと、あんた…
俺をどうするつもりなんだ?
ここはあんたの家なのか?」
女性は、その言葉ににっこりと微笑んで頷いた。
「もしかして、このことを気にしてくれて…?」
リュックは泥水で濡れた服を指し示し、女性は鍵を開けながら振り向いて頷いた。
かちゃりと鍵のはずれる音がして、女性は扉を開き、私達を招き入れた。
「クロワさん、どうしよう?」
「どうしようって…もうここまで来てしまったんだし、それに、せっかくのご好意だし…ねぇ、マルタンさん?」
「そうですね。
リュック、ここまで来たらもう甘えたらどうだ?」
私達は促されるままに、見知らぬ女性の屋敷に足を踏み入れた。
部屋の中は、きちんと片付けられており、センスの良い家具の所々に小さな花が活けられ、女性的で居心地の良さそうな部屋だった。
リュックはすぐに浴室に案内され、私達は広い居間に案内された。
「まぁ、これは…!」
クロワは部屋の片隅に置かれたウェディングドレスに驚きの声を上げた。
女性は、なにも答えずにただ微笑んで部屋を出た。
「…あの方は、口がきけないようですね。」
「えっ!?」
クロードの発した一言に、私とクロワは同時に声を上げた。
そう言われれば、先程から感じていた違和感はそのためだったのかと気が付いた。
「でも…声は聞こえてらっしゃるんじゃないですか?」
「そうですね。
……確かなことは言えないのですが、最初から喋れなかったわけではないのかもしれませんね。」
そんなことがなぜわかるのか、私には理解出来なかったが、彼は医師だ。
何かそういう兆候が見えたのだろう。
「じゃあ、あれは何なのかしら?」
クロワは、あのウェディングドレスを指差した。
人の形をしたものに着せられたウェディングドレスは、少しも汚れてはいないが、どこか古びた感じがした。
「なにか、曰くがありそうですね…」
そうでなければ、こんなものを居間に置いておくはずがない。
きっと、何か深い思い出のあるものなのだろう。
その時、玄関の扉を叩く音が聞こえた。
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