037 : 花嫁の孤独1
*
「あぁ、やっと町が見えて来たぜ!
馬車だと楽なのかと思ってたが、長く乗ってるとけっこう疲れるもんだな。
身体が痛くなっちまった。」
リュックはそう言いながら、ゆっくりと首を回して大きなあくびをした。
あくびが出るのも当然だ。
町が見えて来たのは、もうどっぷりと陽の暮れた頃だったのだから。
「でも、馬車に乗ってたおかげでさっきの通り雨にも濡れずに済んだじゃないですか。
歩いてたら、今頃は風邪をひいてるかもしれませんよ。」
「そりゃあ、まぁ、そうだけどな。
とにかく、早く何か食ってゆっくり眠りたいな。
もう馬車はこりごりだ。」
「じゃ、まずはどこかで食事をしましょう!」
着いた町は、けっこう大きな町だと聞いていたが、私の予想していたものよりはずっとひっそりとしていた。
乗客のほとんどはこの町に暮らす者達のようで、急ぎ足で散り散りに去って行く。
少し離れた所に外灯の集まる一角があるのが映った。
おそらく、あのあたりがこの町の繁華街なのだろう。
私達は、食事をする店を求めて、灯かりの方へ歩き出した。
「ランプをつけましょうか?」
「大丈夫だ、クロワさん。
あそこまでならランプなしでも行けるだろう。
なぁ、マルタン、そういえば……あ!!」
そう言ったリュックの姿が突然消え失せ、その直後に水の跳ねる音がして、私は瞬時に状況を理解した。
「大丈夫か、リュック!」
「……大丈夫なわけないだろ…」
リュックの沈んだ声が響き、彼はゆっくりと立ちあがった。
「仕方ないわね。宿屋を先に探して服を着替えてから出なおしましょう。」
「あぁ…ツイてないなぁ…
転ぶ事なんてめったにないのに…」
はっきりとは見えなかったが、リュックはずいぶんと派手に濡れてしまったようだ。
ちょうど、その時、向かい側から歩いて来た中年の女性が、私達の方へランプの灯かりを照らし出し、驚いたような表情を浮かべた。
するとその女性は、突然つかつかと私達の傍に歩み寄り、リュックの手を引いて歩き出したのだ。
「お、おい、何なんだ!?」
女性は、何も答えずそのまま歩き続け、私達はどうしたものかと考えながら、そのまま二人について歩いた。
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