「こりゃあ、思ってたよりもずっと良いものが出来たな!」

リュックが水車小屋の壁を見ながら、感心したように呟いた。
それは、私も同意見だった。
いや、私だけではなく、他の皆もそうだったに違いない。



「気に入ってもらえて良かったよ。」

ピーターのペンキで汚れた顔が、わずかに赤らんだ。



ピーターの体調面は最近は良くなって来ていたとはいえ、今まではほとんど運動らしい運動もしていなかったのだから急激に無理はさせないようにとクロードからも言い付かり、彼の様子を見ながらペンキ塗りの作業を始めた。
塗る色はピーターに決めさせようということになり、水車小屋を見せた後、ペンキを買いに連れていくと、意外にも彼はたくさんの色を買い求めた。
ペンキ屋では半年しか働いていないということだったが、彼は私やリュックが知らないような細かい下地の作業のことも知っており、そんなことから丁寧に作業を始めた。
次に、彼は、壁に下絵を描き始めた。
私達なら、単色で塗り潰すだけだった筈のその壁に、絵が描かれるのだと知って私達は驚いた。
さらに、その絵が仕上がっていくごとに、彼の絵心にも驚かされた。
彼が描いたものは、赤茶けた荒野に咲く色とりどりの花畑だったのだ。
彼は記憶を失う前に見た荒野を思い浮かべながら、そこに想像の花畑と青い空を描きこんだ。
荒野に花畑と聞くとおかしな感じがするが、その絵には違和感等微塵もなく、荒れた野の色さえもいやな印象を受けなかった。
どこか夢のような、温かな心地良さを感じる素晴らしい絵だった。



「まぁ…なんて素敵な…!」

いつの間にか、降りて来ていたシスターキャロルが、感嘆の声をあげた。



「良いだろう?
この壁のおかげで、なんだか、この場所が急に明るくなったような気がするよな。」

「……本当に。
トーマスさんもきっと天国でこの壁をご覧になって喜んでらっしゃいますわ。」

「……そうだと嬉しいな。」

ピーターは、そう言って切ない笑みを浮かべた。


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