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「ピーター、これ…」

息を切らせたリュックがピーターに差し出したものは、トーマスの机の上にあったあの宝箱型の小物入れだった。
それを受け取ったピーターは宝箱をみつめ、おもむろに動きを止めた。
彼の瞳にはみるみるうちに涙が溜まり、やがてその涙は頬を伝ってこぼれて落ちた。



「お、おい、ピーター、一体どうしたってんだ!?」

突然のピーターの涙に、リュックだけではなくその場にいた者全員が驚いていた。



「それが……俺にも全くわからないんだ…
なんで…なんで、こんなに涙が出て来るのか…
わけがわからない……でも……」

ピーターの涙はなかなか止まらなかった。
彼を見守る皆にも、何が起こっているのかよくわからないようだった。



「リュック、その箱は何なの?
どうして、それをピーターに?」

「……爺さんはどうやらこれを探しに行きたかったみたいなんだ。
見つかったのは良かったが、爺さんが倒れてた机の上に便箋と共にこれがあった。
爺さんは、多分、ここに何かを入れて誰かに渡したかったんじゃないかと思うんだ。
何を入れようと考えていたのかは今となってはもうわからないが、渡したかった相手はやっぱりピーターじゃないのかって思って、それで、俺、もって来たんだ。」

私は、この時、思った。
この宝箱は空のように見えてはいるが、ちゃんと中身が入っていたのだと。
それは、トーマスのピーターへの想いだ。
肉親のいなかったトーマスの、ピーターに対する温かい想いだ。



……そして、ピーターはちゃんとそれを受け取った。

私にははっきりとそう感じられた。


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